日本に「良質な言論空間」は生まれるか--ハフィントン・ポスト日米両編集長の挑戦 - (page 2)

岩本有平 (編集部)2013年05月20日 08時00分

松浦氏:ネットメディアがここまで大きくテレビや雑誌、新聞などに取り上げられた記憶がありません。ポジティブにとらえれば、こういう形で業界外のメディアにも出られたことはまず良かったと思っています。

 実は、オープン時のトップページ(「HELLO,NIPPON」というメッセージの下に、ハフィントン氏をはじめ米国のスタッフの集合する写真が表示された)をどうするかは相当悩んだところがあります。日本版は日本人が運営しているのだから、日本のチームが出るべきではないか、とも考えました。結果として“アリアナ推し”となっているのは、まず「海外からきました」ということをイメージ付けた方がいいと考えたからです。


ハフィントン・ポスト編集長の松浦茂樹氏

--発表会では、参加した取材陣やブロガーに対してカタカナで「ハフポ」と刻印された紅白まんじゅうが配られました。こういったユーモアも含めて言語だけに限らない「ローカライズ」を狙うという印象を受けました。

  • 「ハフポ」と刻印された紅白まんじゅう

松浦氏:だからこそなおさら(アリアナ推しによる)黒船感もちゃんと出さないといけないと考えました。

 紅白まんじゅうについては、黒船感を出す一方で、ライフスタイルやエンターテインメントといったさまざまな要素があるということも伝えたいと考えました。政治や経済だけではない。バリエーションは広いんだよ、ということです。

--ハフィントン・ポストでは、ページビュー(PV)やユニークユーザー(UU)以外に、コメント数をKPIに置いていると聞きました。

松浦氏:どちらかというと日本ローカルな話です。もちろん「コメント数をもっと増やしてほしい」とは米国から言われていますが、数字の目標を持たされているわけではありません。

 米国ではどちらかと言えば「コメントがついて当たり前」というような考えがあります。ですが日本はその土壌から作っていかなければならないでしょう。それもあって、日本についてはコメント数をKPIにしようと考えました。とにかくコメントの母数がない限りは言論空間を作っていけません。

--米国から求められているKPIとは何なのでしょうか。

松浦氏:結局求められるのはビジネスとしての数字です。そこについては日米で何ら変わりはありません。

--ブロガーや読者の書き込みに対する編集方針について教えて下さい。コメントについては編集すると聞いています。ブロガーの中からは「投稿してもすぐ記事が出ない」といった声も聞こえます。

松浦氏:編集を入れるという表現をしていますが、ブログを「出す」「出さない」という判断をするだけです。なので「検閲する」ということは言いたくありません。アリアナも言ったように、我々はプラットフォームです。そこに載せる載せないの判断はします。日本語として訳すと「検閲」という言葉になるのかもしれないが、そういう言い方をすることはないと思っています。

 また数字など、「内容が本当に正しいのか」とブロガーに確認するといったことはやっていきます。

--投稿の「気軽さ」と「質」のどちらに重きを置いているのでしょうか。

松浦氏:今は質の方に重きを置いています。今はまず「こういう場所だ」ということを伝えたいのです。投稿の本数自体はありがたいことに集まっていますが、出す順番やイメージ付けも含めて考えています。

--投稿に関してはポジティブな議論の場を形成するとしています。どういった内容を「出さない」と判断するのでしょうか。

松浦氏:言葉の良し悪しではなくて、ある事象に対して「ダメ」と否定で終わるのではいけないと考えています。否定し、責めることは簡単です。ですが代替案を示すことだってできるはずです。たとえばスタートアップもそうですが、一度こけたら次にいけない、というところがあります。そういった考えは日本人特有のものではないでしょうか。

--この「編集する」という方針について、ソーシャルメディアでは好意的な意見が見られます。

松浦氏:我々は主観では判断しません。結果が数字として出てくれば、そこで判断すればいいのです。僕がやっていることに対していろんな意見があることはきっちり受け止めます。抽象的なものでなく数字としての結果で受け止めたい。

 何をもって失敗しました、成功しましたというのかもメディアによっても違います。たとえば、毎日文房具の情報どんどん発信するブログメディアがあったとして、そこは200万PVでも成り立つと思う。そこに1000万PV必要というのは「何を言っているんだ」という話になる。

 もちろん「3年後にニュースメディア5番手の一角になる」という目標があります。それができなければ私の責任だ、ということです。

--発表会では、「責任も編集権も松浦氏にある」という話がありました。代表や記者が朝日新聞社から出向していますが、実際のところ編集権はどうなっているのでしょうか。

松浦氏:ウェブメディア出自の人間としては「編集権は編集長にある」と言えます。少なくとも現時点で私が何かを言われたということはありません。もしそれが守られてないのであれば、それも(ハフィントン・ポストで)言っていきます。そういったことも含めて問題点をポジティブに解決していきたいです。

--米国では、編集部の記者がFacebookやLinkedinのアカウントを公開している一方、日本ではそのあたりの表記があいまいなようです。

松浦氏:下部には「by ○○」という形で筆者名が入っています。端的に言えば、少しの内容を書いたものには署名を入れない、記者が取材をしてきっちりと書いたものであれば確実に署名は入るという感覚です。

--ハフィントン・ポストでは、他媒体やソーシャルメディアのソースをもとに、まとめ的な記事を記者が作っています。NAVERまとめや2ちゃんねるまとめなどとの違いは何でしょうか。

松浦氏:速報性が求められる際は、さまざまニュースソースをもとにまとめ形式で記事を出します。今もまさにやっているところです。

 個人的に言うのであれば、NAVERまとめや2ちゃんねるまとめは大好きです。ですがそこで、ソースに対してリスペクトを持つのがハフィントン・ポストのやり方だと思っています。

 言い方は極端ですが、2ちゃんねるまとめはある意味ソーシャルニュースの完成型ではないでしょうか。一次情報があって、その情報に対してついたコメントが編集されてパッケージ化されています。さらにそのパッケージに対してもコメントがつく――この事象だけを切り出すのであれば、実はハフィントン・ポストと何も変わらないのです。

 ですがそのときに、一次情報に対してリスペクトをするかどうかということです。たとえばハフィントン・ポストでは、リンクアウトという形で、リンクをクリックした際に一次情報を掲載するメディアに飛ぶということもしています。密にやりとりしているメディアについては、常設枠を置くといったことをやっていきます。各メディアとは必ず話し合いをしています。ネットメディアとしていがみ合う気はありません。

 また、我々のTwitterアカウントを見てもらえば分かりますが、ツイートを引用した際も、その旨を流すようにしています。それで怒られたら内容を下げます。柔軟な対応ではなく、全部エンゲージメントをとるということをしています。

--ブロガーに関しては、今は政治家などを意識的に増やしているように見えます。今後の拡大戦略を教えてください。

松浦氏:政治家についてはある程度意識的に増やしています。また、プロモーションの目的もあるので有名な方も多くなっています。

 だとすると「この人が入っていないのではないか」と聞かれるようなブロガーもいると思います。そこは「ポジティブかどうか」という点で打診を判断をしています。たとえば堀江さん(堀江貴文氏)にしても、宇宙のように未来志向を語れる人です。

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