あなたは、「Fab(ファブ)」や「Make(メイク)」という言葉を聞いたことがあるだろうか? デジタルとリアルを自由に行き来する新しいものづくりの潮流として、急速に注目を集めているキーワードだ。かつて、製造業による大規模で大量生産的な「モノづくり」と、個人による小規模で趣味的な「ものづくり」の世界は分断されていた。しかし今、デジタル工作技術の普及とオンラインサービスの多様化によって、その境界がなくなりつつある。その現状を、紹介していきたい。
3Dプリンタ(樹脂や石膏、金属粉末などを積層して立体造形物をつくる機械)、レーザーカッター(高出力のレーザーで板状の素材を彫刻や切断する機械)、ミリングマシン(ルーターの先に取り付けたドリルの刃で素材を切削して立体造形物をつくる機械)、カッティングマシン(ヘッドに取り付けたカッターの刃で薄膜状のシートを切断する機械)——これら4つがデジタル工作機械の代表的なものだ。これらはすべて、コンピュータから操作して加工ができる。もともと産業用の技術であったデジタル工作機械は、小型化、パッケージ化、そして低価格化が進むことで、ついに各家庭のデスクトップに納まるまでになった。
個人によるものづくりが広がることを予見し、いち早く一般市民のために開放したのがMITビット・アンド・アトムズセンター所長のニール・ガーシェンフェルド氏だ。同氏は2002年に「FabLab」を設立している。FabLabの設立経緯や活動内容は、ニール・ガーシェンフェルド氏の著書の「Fab パーソナルコンピューターからパーソナルファブリケーションへ」(田中浩也氏 監修、糸川洋氏訳)で詳しく紹介されている。
FabLabでは、人々が3Dプリンタやカッティングマシンなど多様な工作機械を自由に利用して、「ほぼあらゆるもの("almost anything")」を制作することを目標ととしている。世界中に存在し、市民が自由に利用できる。このFabの実験場は、世界中の人々に驚きを持って迎え入れられ、4月時点で世界50カ国、250カ所以上に拡大している。
ガーシェンフェルド氏が提唱するFabには「FABrication(ものづくり)」と「FABulous(愉快な、すばらしい)」の2つの意味が込められている。そしてFabLabでは誰もがものづくりを学び、実践し、そしてまた誰かに共有するサイクルが生まれている。
日本では、2010年にFabLab Japanが発足。「つくりかたの未来」というテーマを掲げ、デジタル工作機械による様々なつくりかたを紹介することから始まった。2013年4月現在、国内では鎌倉のほか、つくば、渋谷、北加賀屋の4カ所でFaLabが開設されている。日本におけるFabのムーブメントは、FabLab Japan発起人である田中浩也氏の著書「FabLife――デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」」で詳しく紹介されている。
そしてもう1つ、新しいものづくりのムーブメントとして「Make」がある。クリス・アンダーソン氏の著作「MAKERS」でその名前が一躍有名になった言葉だが、Makeも米国発のムーブメントだ。雑誌とウェブで展開するMaker(ものづくりをする人)向けメディア「Make:」と、Makerたちが自らのプロジェクト成果を披露する祭典的イベント「Maker Faire」を核に、世界中でコミュニティを拡張している。FabLab Japanも、2010年春のMaker Faire(当時の名称は「Make Tokyo Meeting」)内で発表された、「FabLab Japan設立宣言」がきっかけだった。
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