いま世界中で「ものづくり」に対する新たなムーブメントが起こり始めている。既製品にとらわれず、ユーザーが自分でオリジナルのアイテムを作ったり、既製品からひと手間加えたデザインの製品を求めたりすることが、比較的手軽にできるようになってきたからだ。
そんな新しいものづくりを体験できるカフェ「FabCafe」が東京・渋谷にオープンした。デジタル工作機械とカフェを兼ねえた空間が何を作り出すのか。そしてこれからのクリエイティブはどう変わっていくのか。カフェを運営するロフトワークに聞いた。(FabCafeの様子やレーザーカッターでの工作の様子を写真で紹介した記事はこちら)
渋谷の道玄坂を登りきったところにあるFabCafeは、3月7日にオープンしたばかり。席数は40席ほどで、通常のカフェと同様に、コーヒーやカフェラテなどのドリンクを飲むことができる。また昼時にはランチメニューなども提供している。電源や無線LANは無料で利用でき、イベントスペースとして使うこともできるという。
FabCafeの最も大きな特徴は、カフェ中央に設置された大きなレーザーカッター。店内に掲示してあるメニューや番号札などは、このレーザーカッターを使ってスタッフ自らが作成している。もちろん、デザインのデータさえあれば、来客した人が加工することも可能だ。カフェでも木版やノートなどを販売しており、自身で持ち込んだものを加工することもできる。カフェは国道246号に面しており、通りを歩く人たちも店内のレーザーカッターに注目している様子がうかがえる。
「FABとは『FABrication(ものづくり)』と『FABulous(愉快な、すばらしい)』という2つの意味が込められている。周囲の人と一緒にものを作ることの楽しさを感じてほしい」――FabCafeの運営を協力するFabLab Japan創設メンバーの1人であり、現在はロフトワークでFabCafeの運営に携わる岩岡孝太郎氏は語る。
FabLabは、MIT教授のニール・ガーシェンフェルド氏が著書で提唱したコンセプト「FAB」をもとにしたハイテク工作機械を備えた一般市民向けの工房ネットワークだ。世界20カ国、50以上のネットワークがあり、日本では慶應義塾大学准教授の田中浩也氏が発起人を務める「FabLab Japan」が鎌倉やつくばなどに工房を構え、各地のFabLabと共同プロジェクトをおこなっている。
そもそも、どのようにしてこのFabCafeはできたのか? 「FabLab Japanの田中浩也氏と出会い、Fabの楽しさを知った。何か作ってみたい、そして仲間と一緒に考えたら何ができるのかを考えたことがきっかけ」――ロフトワーク代表取締役の林千晶氏はこう語る。
「周囲のクリエイターを集めて、まずはみんなでFabについて考え、真剣にものをつくってみようと考えた」という林氏。現在FabCafeがある場所(当時はロフトワークのイベントスペースだった)にFabLab Japanからレーザーカッターや3Dプリンター、デジタルソーイングマシンといったデジタル工作機械を持ち込み、デザイナー、建築家、編集者などを集めて1泊2日の合宿を企画した。
「2、3時間のワークショップでは終了時間に向けてアイデアを収束させてしまう。複数1日単位でアイデアを出した結果、参加した各グループがそれぞれ思いもよらないものやデザインを作り上げた」という林氏。合宿を通じて、自分たちが欲しいものを協働で作る楽しさや、既成概念を壊し新しいアイデアが生み出される「オープンイノベーションの感動」を覚えたという林氏。合宿に参加していた岩岡氏の提案もあってFabとカフェを融合した構想が生まれたという。
岩岡氏の提案のもと、トリプルセブン・インタラクティブ代表取締役の福田敏也氏やロフトワーク代表取締役社長の諏訪光洋氏、林氏などがカフェのトータルプロデュースを担当。空間デザインは、8月の合宿企画にも参加していた成瀬・猪熊建築設計事務所の成瀬友梨氏、猪熊純氏が手がけた。
オープンしてから約1週間だが、予想以上の反響に驚いているという林氏と岩岡氏。「がっつりとしたギークばかりかと思っていたが、意外と女性も多い」(林氏)今後は気軽にものづくりができるよう、レーザーカッターを使った工作のメニューなども開発していくという。
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