クールジャパンを世界に発信する--経産省が手掛ける官民出資の新会社の狙い

岩本有平 (編集部)2013年05月01日 16時30分

 マンガやアニメ、ポップカルチャーなどの日本独自の文化やその魅力を指す言葉「クール・ジャパン」。このクール・ジャパンを海外に発信すべく、国が支援施策を進めている。

 そのクール・ジャパン支援施策のキモとなるのが、経済産業省(経産省)が手掛けるクール・ジャパン推進のためのファンドだ。ファンドの設立に必要な「株式会社海外需要開拓支援機構法案(クール・ジャパン推進機構法案)」は3月15日に閣議決定し、仮に国会審議が順調にいけば、概ね6月中にも国会で成立する見込みだ。この法案が成立したのち、株式会社クール・ジャパン推進機構(仮称)が設立され、同社を通じてクール・ジャパン分野への投資がなされる予定だ。


経産省 商務情報政策局クリエイティブ産業課クール・ジャパン海外戦略室長補佐の小田切未来氏

 経産省が手掛けるクール・ジャパン施策とは果たしてどういったものなのか。クール・ジャパン推進機構法案をはじめ、同省のクール・ジャパン関連施策を担当する経産省 商務情報政策局クリエイティブ産業課クール・ジャパン海外戦略室長補佐の小田切未来氏に聞いた。

--そもそも、経産省の言う「クール・ジャパン」とは何なのでしょうか。

  まず、各国の文化産業振興政策の戦略の1つとして、90年代にイギリスで端を発した「クール・ブリタニア」があります。これは音楽やファッション、美術など、イギリスから生まれた独自の文化を表す言葉です。

 そして、「クール・コリア」――韓流とも呼ばれる韓国の事例ですが――1997年のアジア通貨危機の影響もあって人口5000万人の同国は海外に積極的に出て行き、外貨を稼がないといけないとなりました。そして彼らは国の支援の下で文化を海外に発信し、気付けばKARAや少女時代といったグループが日本に進出するに至りました。 産業構造ビジョン」ではじめてクール・ジャパンという言葉が使わました。その統一コンセプトの下で、我が国の文化産業振興政策を実施していくことが提言として書かれています。

--クール・ジャパンという言葉は、アニメや芸能などコンテンツ産業の動きを指すのでしょうか。

 もともとは、日本のマンガやアニメ、ポップカルチャーなどのコンテンツを指していました。ですが今はその幅は広がり、食材やファッション、伝統工芸、家電、自動車など、衣食住に関わるもの、ひいては教育や福祉、ブライダル、ITまで、日本独自の文化を含めてクール・ジャパンだとしています。

 クール・ジャパンの定義に関しては「法律で明確にすべき」という声もありますし、「厳密な定義をするべきでない」という声もあります。現在は明確な定義がないので誤解もありますが、(枠組みがないほうが)異業種間のコラボレーションができると考えています。

--官主導のクール・ジャパン施策としては、内閣官房のクールジャパン推進会議で識者がクリエーターに対して無報酬での協力を求めた、という話も話題になっています。

 まず、クールジャパン推進会議に関しては内閣官房の特命担当大臣(稲田朋美大臣)が主導しています。こちらは、クール・ジャパン関連の財やサービスをどう広げるか、推進方策や発信力の強化について検討することが目的です。

 これと連携しつつ、我々は日本のクリエイティブ産業を海外でどう成功させるかを考えています。基本戦略としては、(1)日本のコンテンツを海外で発信する(メディア事業)、(2)コンテンツに関連した商品を現地で販売して稼ぐ(流通事業)、(3)日本に呼び込む(インバウンド事業)――の3点です。

 この戦略に向けて、民間のクール・ジャパンに関連する取り組みを早い段階から支援し、それを事業化し、さらにはその取り組みについて環境整備・情報発信をするということを進めています。

--その3点について、具体的にどういった取り組みをしてきたのでしょうか。

 コンテンツやテナント、商業施設、スポンサーなどの企業のマッチングイベントを2012年に開催しました。企業間のマッチングという点では、我々の最大の強みは「巻き込み力」です。我々は大手新聞社からメイドフェまでネットワークを持ち、彼らを呼んでくることができます。

 このマッチングイベントを通じてコンテンツプロバイダーやメーカーなどがチームを作り、海外展開が加速化したという事例もあります。例えば、もともとパルコは、シンガポールに進出していましたが、マッチングイベントに参加していた日本ファッション・ウィーク推進機構と連携して、日本とシンガポールのデザイナーやクリエーターがコラボレーションをする「Hello Shibuya Tokyo」という取り組みを実現しました。

 また、シンガポールやインド、インドネシアといった海外政府と、クリエイティブ産業分野での協力を進める文書の合意を実現しました。これはネットでも話題になった講談社の「クリケット版の巨人の星(スーラジ ザ・ライジングスター)」などの形で結果が出てきています。

 さらに約10億円の予算をもとに、前述のパルコの事業を含んだ15の海外事業で市場調査やテストマーケティングなどの支援を行いました。

 ただ一方で、省庁の予算は単年度主義であり、複数年にわたっての支援には不向きです。そういう中でクール・ジャパンファンド――我々は「機構(クール・ジャパン推進機構(仮))」と呼んでいますが――の存在が重要となってくると考えました。

--クール・ジャパンファンドについて、詳細を教えて下さい。

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