2月28日、サイバーエージェント・ベンチャーズにて「エンタテインメントの未来を考える会 黒川塾(六)」と題したトークセッションが行われた。エンタメ系コラム執筆などの活動を行っている黒川文雄氏が主催・コメンテーターとして、エンタテインメントの原点を見つめなおし、未来についてポジティブに考える会となっている。
今回は「フリーカルチャー@ゲーム」をテーマに、エンタテインメントにおけるフリーカルチャーのありかた、さらにはゲームへの活用の可能性について話し合った。
この日ゲストとして登場したのは、日本におけるフリーカルチャー運動のメインプレイヤーである、NPO法人クリエイティブ・コモンズ理事のドミニク・チェン氏、ジャーナリスト/メディア・アクティビストとして知られる津田大介氏、黒川氏とともにフリーカルチャー@ゲームを標榜したゲーム開発を行っている「TEAM グランドスラム」のメンバーで、サウンドクリエイターの中村隆之氏、グラフィックデザイナーの納口龍司氏、ゲームクリエイターの飯田和敏氏。
まず冒頭では、フリーカルチャーにおけるこれまでの流れや考え方をチェン氏が説明した。フリーという言葉にはいろんな意味があり、そのなかでも「無料」を思い浮かべやすいが、ここでのフリーは「自由」。フリーカルチャーは、作品を受け取る側の自由度合いを意味するもの。「作者が作品を受け取ってもらう人に向けて、ただ鑑賞するだけではなくどのように使って貰うか。場合によっては改造してリミックスしていくのを作者自身が自ら設定するという発想です」(チェン氏)。
この考え方や流れの例として、1980年からのフリーソフトウェア、1990年代前半のLinuxの登場や後半のオープンソースの潮流などを説明し、そこからコンテンツをオープンにしていく考え方が提唱され、クリエイティブ・コモンズができたという。現行の著作権法で保護されている領域と、保護されていないパブリックドメインとの中間に位置するものがクリエイティブ・コモンズで、著作権を有している著作物を、作者自ら少し緩くして受け手側に対して自由に使うことを許可するものとなっている。その許可の範囲は6段階に分かれていて、許可する範囲が異なっている。
クリエイティブ・コモンズの考え方はシンプルだという。「過去に作られた物が、現在作られている物を構成している。そして現在ある物は、未来の時代にほかの作品の一部になることを認識しましょうという話なんです」(チェン氏)。イノベーションを起こす気が無く既得権益を守ろうとし阻害してしまうことに、問題提起をしているということだ。この考え方に賛同しクリエイティブ・コモンズライセンスを採用しているコンテンツは、ここ10年で4.5億件以上に増加している。
こうしたフリーカルチャーの事例として有名なのは、2012年12月にクリプトン・フューチャー・メディアが、初音ミクをはじめとした同社のボーカロイドソフトにおける公式イラストにクリエイティブ・コモンズライセンスを採用したこと。また同ライセンスではないものの、漫画家の佐藤秀峰氏が「ブラックジャックによろしく」において二次利用を許可したのも記憶に新しいところだ。
音楽業界でもフリーカルチャーの動きはあり、津田氏はイギリスのロックバンド「レディオヘッド」が新譜の新譜の音楽配信で既存レーベルとは契約せず、自らサイトを立ち上げて行ったことなどを例に挙げた。もっとも音楽業界の場合はネット配信での収益が小さい、あるいは無料にしたとしてもライブを開催することによりグッズ販売などでの収益が上げられるのが強みだとした。
ゲームにおけるフリーカルチャーの流れに話題がうつると、津田氏はネットで一緒に楽しんだり盛り上がることの広がりやライブ感によって、フリーカルチャーとの相性はいいという。また、「音楽のライブに近い」というライブ感は、ニコニコ動画がすでに提供しているともコメント。「なぜニコニコが受けたのかは、動画を見ながらコミュニケーションをするところなんです。これがゲーム的な楽しさやライブ感に繋がっているんです」(津田氏)。また、少し変わった点として「自分が再生したから100万再生したんだという、俺が育てた的な価値観もあるんです。これは音楽ではありえない価値観だと思いますし、それぐらい作り手と受け手が近い存在になっていると思います」(津田氏)とし、どんなに近くても消費者とクリエイターの壁があったものが、ニコニコ動画によって部分的に壊れており、このテイストはゲームにも生かせるという。
ゲームの作り手側と受け手側の意識の転換期として、中村氏は「ストリートファイターII」や「バーチャファイター2」などの格闘ゲームのブームによりユーザーのコミュニティの力が大きくなり、クリエイター側が無視できなくなるほど大きな影響力を持ち始めたと指摘した。
また納口氏は、かつて制作したゲームの動画をニコニコ動画で見たときの感想として「コメントがたくさんついてるのを見て、ゲームというのは音楽みたいにクリエイターだけでは完結しないな、と。これがフリーカルチャーとどう繋がっていくのかは難しいけど興味あります」と述べ、作り手の思いだけではなく、プレイヤーをはじめとした受け手側による盛り上がりとその共有体験も作品になるのではないかとした。
作り手と受け手の距離感が近くなっているなか、ゲームカルチャーとして受け手側も参加してうまく融合させるには、ゲームを作りへの敷居を下げることも必要との意見もあった。チェン氏はかつて「RPGツクール」に熱中したことを通じて、ただ与えられるだけではなく自分が考えて作ることに参加できる気づきを与えてくれた原体験だったと振り返った。そしてゲーム制作の知識が少なくても、簡単にいじったり作ることができるツールや導線を用意することにより、ゲームにおけるフリーカルチャーの流れが爆発的に変化する可能性を示唆。黒川氏もUnityの登場などで、環境が徐々に整いつつあるとした。
ここで中村氏が取り組んだフリーカルチャーの試みのひとつとして、簡単に効果音を作成できるツール「Graph Arpeggiator 3」を紹介。このツールで制作された約3000種類の効果音を、中村氏が代表取締役を務めるブレインストームの「SOUNDICONS」にて配信。この効果音はクリエイティブ・コモンズの規約や利用条件に準じ「SOUNDICONS by BRAINSTORM co.,ltd.」の表記を添えることを条件として、商用も含めて自由に二次利用することが可能となっている(※Graph Arpeggiator 3のソフト自体は有料)。
終盤には、TEAM グランドスラムが制作しているゲームプロジェクト「モンケン」が紹介された。ゲームにおけるフリーカルチャーを標榜し、クリエイティブ・コモンズライセンスを採用する形で運用。ゲームの改良や新しいコンテンツの派生を推進する。内容は原案の黒川氏が強烈な印象として残っているという、1972年2月に起きたあさま山荘事件にて、人質を救出するためにクレーン車に吊った鉄球(モンケン)によって建物の一部を破壊したことをモチーフにしている。
会場ではプロトタイプによるデモプレイが披露され、津田氏がクレーンとモンケンを別々に操作するようなバリエーション派生の可能性を示唆するなど、多様なアイデアが飛び出していた。
ちなみに黒川氏はこの企画を大手ゲームメーカーに見せた際、面白そうという評価はあったものの「儲かるの? KPIは何? アフィリエイトはどうするの?」と、マネタイズ面の話になってしまうことが、フリーカルチャーとしてゲーム制作を踏み出すことの原点としてあったという。それについて津田氏は、Kickstarterのようなクラウドファンディングなどを例に、最近はお金を集める手段も多様化しているとし、またゲームに関しては国外に飛び出してもいい存在になっているので、こういう取り組みが今後やりやすくなるのではと語った。
「モンケン」については、あくまでインデイーズとして本プロジェクトを進行するとともに、プロジェクトへの参加の呼びかけを行って締めくくった。
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