ところが、ライバルであるアップルが、2010年、iPad(初代)と同時に開店したiBookstoreの契約にあたって、出版社が最終小売価格を決め、アップルはそこからコミッション(手数料)を取る、という「エイジェンシー(代理店)モデル」で契約をしたため、電子書籍の流通に関しては、2つの契約のあり方が併存することとなった(次回以降に述べるように、このときの契約のあり方が米司法省その他からの、独禁法違反訴訟の標的となった)。
OECDが2012年10月に発表した「電子書籍:発展と制作課題 E-Books: Developments and Policy Considerations」というレポートに基づいて、電子書籍の2つの契約方式を図解してみるとこうなる(日本でも米国でも、出版社と書店の間に取次が入る場合と入らない場合があるが、ここでは省いている)。
これまで挙げた論者は、いずれも米国の紙の書籍市場では日本の「買切販売」(返品なし)に相当する「ホールセール(卸売)・モデル」が適用されている、と考えている。「米国では本が元々ホールセールモデルで販売されていた、だから電子書籍でもホールセールモデルが主流になった」というわけである。
ちなみに日本では「エイジェンシー・モデル」を「エイジェント・モデル」などとも表記する人が多いが、筆者は英語でagent modelと表記されているのを目にしたことがない。英米圏でagentといえばliterary agent(著作者代理人)のことを指すので、電子書籍の「代理店」はagencyと使い分けているのかもしれない。
ともあれ、筆者は2009年頃にこの件が話題となって以降、「パブリッシャーズ・ウィークリー」などの専門紙から、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなど一般紙に至るまで、関連記事についてはそれなりの注意を持って観察してきた。それだけでなく、米国の出版界について書かれた書籍については、ここ数年内に刊行されたものに関しては、入手が容易なものはかなりの数、目を通したつもりだ。日本語の文献でこの件に触れたものは非常に少ないが、それについても目に付く範囲で読んだ。
ところが、これまでのところ、その中に「米国の書籍流通は買い切りである」と書かれたものをいっこうに発見できないでいる。それどころか、逆のことを示唆するものばかりが目につくのだ。
次回に続く。
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