フジテレビジョン(フジテレビ)グループの持ち株会社であるフジ・メディア・ホールディングス(FMH)が、ベンチャーキャピタル事業会社「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ」を設立した。15億円程度の投資ファンドを組成し、ITスタートアップへの投資を進めるという。
これまでゲーム事業やIT企業との連携などを積極的に手掛けてきたフジテレビだが、テレビ局がITスタートアップを対象としたベンチャーキャピタル事業に参入するケースあまり例がない。新会社設立の意図やその目標について、フジテレビ常務取締役でフジ・スタートアップ・ベンチャーズ代表取締役社長の亀山千広氏、フジ・スタートアップ・ベンチャーズの種田慶郎氏に聞いた。
亀山氏:これまで、金額の大小にかかわらずすべての投資案件について、取締役会を通して報告する必要がありました。ですが我々の取締役会は月1回です。IT系の会社のスピード感とはまるっきり合っていないという気持ちがありました。
もう1つは、種田もフジテレビでゲーム事業をやっていて(編集部注:種田氏はフジテレビのデジタルメディア事業部長としてゲーム開発に携わってきた)、アプリの開発を社外に発注してきました。
その制作費というのは実は投資と同じだと考えています。制作費をかけて生まれてきた成果物(ゲーム)がお金を生むかも知れません。ですがその前段階では、「(お金を生むかどうかを考えるのではなく、)そんなおもしろいことを考えているなら、作ってみてよ」と話すわけです。もちろん制作発注するので、出資ではなく制作費という形ではありますが、ある意味投資ですよね。仕上がったものをどうやって最大限に売るかということは、僕らが考えればいいことですから。
ドラマや映画を作る場合、制作費というのは実は全部が投資のようなものなんです。1人の監督に1本目の作品を撮らせた場合、その作品がダメでもそこで覚えた技術が次につながります。なので「最低3本撮らせろ」と私は言い続けてきました。3本目で返してもらえればいい。
制作費で成果物ができるのが映画ですが、一方では制作することでこそ、制作者の技術が進歩します。たとえばCGチームがものすごく発展したりします。
1つの例なんですが、映画「海猿」の1作目では、ずいぶん一緒に仕事をしてきた会社にCGチームをお願いしたんです。その会社は当時たったの4人。ですが、その映画から、50人規模の会社になりました。作ったCGのテクニックは補完されるので、次に作るときはよりよいものができる。たとえば水のリアルな表現を炎のリアルな表現にも生かすといったことができます。ですが(彼らが成長する一方で)制作費で発注している以上、僕らは相変わらず「発注する側」でしかありませんでした。
そういった状況で何かできないか考えている中で、たまたま投資に対する思いを持っている人間が社内にいて、「ともかく会社を作らせて欲しい」となりました。もちろん取締役会には報告しますが、1つ1つの案件を判断するのは、現場の人間が「これがいい」と思ったもの。そのためのファンドの会社を作るということです。
亀山氏:スタートアップがいいと思うのは、「一緒にできる」「機動力がある」ということですね。「いいものを作ろう」となったときに、僕らは組んだ時点で制作依頼をします。それはアプリやサービス、僕らが作るコンテンツの一部となる技術などさまざまです。すると、スタートアップの方々はすぐに成果物を出してくれます。
その成果物が秀逸なのであれば、「じゃあ商品にしてみるか」となりますね。そして商品として成功して、ほかのテレビ局でも使って欲しいとなれば会社を上場させる――こういった流れが理想型だと思っています。
ですので、「あるプロジェクトのために、ここの会社を買う(M&Aする)んだ」という発想ではありません。現場の人間が日々付き合っている方々で、「面白い」と思っている人たちに投資をしていきたいと思っています。
そういう思いを知ってもらえることで、今まで僕らが知らなかった情報、それこそ「そんなことを考えているのか」と思わされるような話が多く入ってくると期待しています。
そうして得た情報から、「○○が流行しそうだ」となれば、先取りして深夜番組に取り入れるといったこともできます。そんなシナジーだって生まれてくると思っています。
ですがこういったことは社内だけではできません。そういう意味ではスタートアップの人たちの頭の中をのぞいてみたいと思っています。彼らが持っている、世に出ていない技術や発想こそが刺激になると考えています。
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