ソーシャルゲームの定義は人によってまちまちではあるものの、その根底で人々を突き動かすのは所属や他者承認といった、コミュニケーションに対する根源的な欲求であると言われている。長田氏の開発動機には、ゲームというアプローチだけでは到達できない、真のコミュニケーションインフラへの挑戦が明確にあったのではないだろうか。
「ただ“やりたいです”と言って、“どうぞお好きなように”とやらせてくれるほど、のんきな会社ではないので、ビジネスとしてどう成立させるかをきちんと考えました。基本となるのがソーシャルゲームやECへの送客です。そっちできちんとビジネスには貢献するからcommはシンプルでいさせてくださいと考えていました」(長田氏)
人々のコミュニケーションを基盤として、ツールとして支援する。commの機能の全てがその極めてシンプルな方針に基づいている。伺った話をいくつか紹介したい。
「ソーシャルネットワークを使って知り合ったあの人。頻繁にやり取りしているけど、緊急の要件で話がしたいときに電話番号がわからなくて困った、もしくは、会社の番号やメールアドレスはわかるけど、個人の携帯番号が分からない。そういう時に、全員がcommを使ってたらすごく便利だと感じるはずです」(山敷氏)
このような場面におけるcommのアプローチは「探せればいい」。実名登録だからこそ探すことができ、コミュニケーションの機会を逸する可能性を減らせる。もちろん、探されたくない人はプライバシーの設定から検索対象にならないよう設定できる。
この機能を「出会い系」のように不適切に使わせないためには、アプローチする側が実名であるという抑止力が有効だ。ただし、この仕組みを完全に機能させるためには、前述のソーシャルアイデンティティの確立とソーシャルグラフの確立が必須であるため、今はまだ不完全だと思う。
commは当初から、音声通話の「つながりやすさ」を訴求している。音質と接続性は、開発者である長田氏が非常にこだわっている部分だ。
「“会話する” というコミュニケーションの品質って、単に 音質とイコールじゃないと思うんです。音質とともに“切れない”“落ちない”“ちゃんとかかる”という部分が実用レベルになっていることが大事です。利用者の要求を聞くと、こういった接続性に関する項目への関心が非常に高い。もちろんcommは音質もいいんですけどね(笑)」
この音質と接続しやすさを両立するため、commはSkypeやLINEといった先行アプリとは違うクライアント・サーバ型(C/S型)のアーキテクチャを選択した。
commが採用したC/S型のアーキテクチャでは、クライアント(利用者)間の通信経路にメディアサーバと呼ばれるサーバを配置し、音声の圧縮やノイズの除去などをする。またメディアサーバを介して単一ポートでつながるため、通話が切れにくいという特徴がある。SkypeやLINEが採用しているP2P型は特定のサーバを使用せず、クライアントを直接つなぐ方式であるため、経路上で予期せぬ障害が発生した場合に、通話を継続することがC/S型に比べて技術的に難しいとのことだ。
一見、良いことづくめに見えるC/S型アーキテクチャだが、ユーザー間の通話を維持・最適化するためにサーバ側に多くの処理が発生し、インフラコストも莫大なものになる。
このような、コストのかかるC/S型システムを利用していることにより、利用者が増えた際につながりにくくなることはないのだろうか。
長田氏は「まったく問題ありません。非常に高い目標を設定してテストしておりますが、トラブルは起こらないと考えています。例えば、2012年の年内に突然1億ユーザーぐらいにユーザーが増えたとしても大丈夫です」と自信をのぞかせた。
DeNAはECサイトやソーシャルゲームで1日35億PVを超えるような膨大なトラフィックを処理してきている。インフラ関連の技術力の裏づけがあってこそ、選択できた手法といえそうだ。
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