モバイル広告のD2Cがソーシャルゲームに参入する狙い

 「iモード」や「dメニュー」などNTTドコモの広告媒体を専売するD2Cが、2012年に入りコンシューマ事業、特にソーシャルゲームの開発に本腰を入れている。

 1月に初めてリリースしたiPhone向けソーシャルゲーム「関ヶ原演義」は、AppStoreトップセールスランキングで1位を獲得し、Android版と合わせて120万ダウンロードを突破。その後も、「疾風幕末演義」「海賊ファンタジア」「スポットモンスターズ」「繚乱三国演義」などのソーシャルゲームを次々とリリースし、いずれもアプリランキングで上位にランクインしている。

 いまや多くの競合がひしめき合うソーシャルゲーム市場に、なぜ広告/マーケティング事業を展開するD2Cが参入したのか。またソーシャルゲーム開発のノウハウを持たない同社がどのようにして人気タイトルを開発したのか。

 コンシューマ事業を統括するコンシューマビジネス本部 本部長 社長補佐の山口哲也氏、「関ヶ原演義」のプロデューサーを務めるコンシューマビジネス本部 担当部長の河崎伸明氏、「海賊ファンタジア」のプロデューサーを務めるコンシューマビジネス本部の砂賀真琴氏に聞いた。


左から、D2C コンシューマビジネス本部の砂賀真琴氏、コンシューマビジネス本部 本部長 社長補佐の山口哲也氏、コンシューマビジネス本部 担当部長の河崎伸明氏

――広告やマーケティング市場を主戦場としてきたD2Cがコンシューマ事業を開始した経緯を教えて下さい。

 山口氏:D2Cはモバイル広告のパイオニアとして、10年以上フィーチャーフォン向けのサービスを提供してきましたが、現在フィーチャーフォンの利用者はどんどんスマートフォンへと置き変わってきています。ただし、移行期間であるこの3年間くらいは(スマートフォンにおいて)成熟したマーケットやメディアは育たないだろうと考えています。

 たとえばiモードの時の経験からすると、1000~2500万人くらいの人がサービスを使っていても、広告メディアとしてはまったく成立しません。3000万人台くらいからようやく儲かる人が出てきて、それに伴ってメディアが成長し、また人が増えていくというエコシステムがありました。ですので、いまスマートフォンがすごく取りざたされていますが、実際に使っている人たちをiPhoneとAndroidで分けてしまうと、市場としてはまだまだ小規模で、そこで何かアクションを起こしても、儲かる人たちは非常に少ない。本格的に市場が成熟してくるのは2014~2015年になるのではないかと思います。

 そこで、D2Cとしてどのような対策をとるべきかという戦略を練り、これまでの(1)「広告事業」と、我々の持っている広告ビジネスのモデルを海外展開していこうという(2)「海外事業」、そしてD2Cとして消費者向けにサービスを提供する(3)「コンシューマ事業」の3本柱を2年半前に設定しました。

 コンシューマ事業については、まずはそこで収益化しようという話があります。また実際にスマートフォン市場の中で、コンテンツ事業者がどのようにマーケティングで成功していくかということを実証実験していきながら、自社のBtoBサービスに生かしていくという、戦略的にBtoC事業を展開しようというものです。

 そこで2010年にプロジェクトチーム「スマートフォン・ラボ」を立ち上げ、スマートフォンが主流になった場合にどのような市場になっていくのかということを約1年間かけて研究しました。そして、2010年の10月に「Smart Phone Vector」という組織を開設して、実際にコンシューマサービスの開発の研究を始めたというのが経緯ですね。

――なぜソーシャルゲームだったのでしょうか?

 山口氏:私たちはもともとコンシューマビジネスの経験がないため、マーケティングのプロとして市場を捉えた場合に、どういったコンテンツが当たるのかという視点で、商材を選ぶことにしました。

 その上でスマートフォン市場をいろいろと調査し、まずはAppStore上ではどのようなロジックがあるのかを考えました。すると基本的にはアプリの順位を上げていって、それがユーザーの目に触れ、ゲームやコンテンツの内容が気になればインストールされるという流れでしたので、まずはAppStoreでランキングを上げるということが、マーケティングのテーマになりました。

 また、そこに対してできるマーケティング手法というのは限られていたんですね。当時で言うとアドネットワークやリワード広告などです。そういったマーケティングのルールがある程度決まっていたこともあり、この点に関しては私たちに優位性があると思い、ここにハマる商材を探しました。そこで該当したのが、ネイティブゲームとソーシャルゲームの2つです。

  • 障子を破って遊ぶネイティブゲーム「障子ぽすぽす」

 現在はソーシャルゲームを中心に開発しているのですが、一番最初にヒットしたのはネイティブゲームの「障子ぽすぽす」というタイトルです。ゲーム開発における当初の目標は無料ゲームで1位を取って、D2Cという会社が実際にコンテンツを作る会社として世間に認められることでした。世間というのは開発会社の方や私たちとパートナーになってくれる方々のことです。

 まずはネイティブアプリでトップになって、それがパートナーへのPRになればいいと思っていたのですが、実際に1位を取れたおかげで、さまざまな情報だったり、開発者の方とのつながりができて、次のソーシャルゲーム開発の際のネットワークを構築することができました。

――そして実際にソーシャルゲームの開発が始まったと。

 山口氏:初めてiPhone向けのソーシャルゲーム(関ヶ原演義)をリリースしたのが今年の1月後半です。昨年の10月ころから、iOS上でどのようなゲームを作れば当たるのかということを調査していたのですが、当時はまだiOSで本格的なソーシャルゲームがほとんどなかったこと、またフィーチャーフォンでは凄く人気のあった戦国モノがあまりなかったことが分かりました。

 フィーチャーフォンでは本格的なゲームが主流で操作も難しくなっていたのですが、スマートフォンについては使い慣れていないユーザーも多く、初めてソーシャルゲームをやるという人もいるので、誰でも簡単に遊べるような優しいゲーム性にできれば敷居も低くなって、参加者も増えるのではないかと考え、リリースしたのが関ヶ原演義です。

――開発にあたり苦労したことはありますか?

  • 戦国ソーシャルRPG「関ヶ原演義」

 山口氏:まずゲームを開発してくれるパートナー企業がなかなか見つからなかったことですね。D2Cは広告会社としては老舗ですし、ある程度知られていると思うのですが、ゲーム開発会社からすれば知らない方もたくさんいます。

 また、なぜD2Cがソーシャルゲームに参入するのかを理解してもらえず、なかなかソーシャルゲームで実績のある企業とは組んでいただけなかったですね。これが最初の大きなつまづきでした。ですので昨年3月に発足してからも、しばらく1作目のゲームを作ることができませんでした。

 そこで、「障子ぽすぽす」で得た知見などをもとに積極的に開発者セミナーなどを開催し、その中で出会った方たちにお声がけをして、関ヶ原演義の開発チームを作ってもらうことにしたのです。

 河崎氏:関ヶ原演義では、プロデューサーの方がゲームプランナーやディレクター、エンジニア、イラストレーターなど、それぞれの役割のメンバーを集めてくれました。

 彼らはフィーチャーフォンの時代に成功体験を持っている方たちなのですが、いわゆるノマドワーカーが多くて自分の好きなタイミングで仕事をする人の集まりだったので、そうした人たちのモチベーションをいかに一致させてチームとしてまとめるかが大変でしたね。私の役割はいかにメンバーに気持ちよく開発してもらうかということだと思っていましたので、そのための雰囲気や体制作りにはすごく気をつかいました。

 山口氏:我々にはゲーム開発のノウハウはなかったので、相手に委ねざるを得ないというか、開発は基本的にパートナーにすべてお任せしています。なので、パートナー選びがもの凄く重要で、そこの目利きについては少しずつできるようになってきましたね。ただ、パートナーは必ず素晴らしい作品を開発してくれます。

 また、作品を重ねるごとにノウハウは貯まってきているので、「海賊ファンタジア」などは我々のノウハウも注入して開発しています。また、社内的にはそれぞれプロデューサーごとに担当するゲームがあるので、そこで得た知見を社内で蓄積して、その貯まったノウハウを今度はBtoBや広告主のゲーム制作などでお返しするようなスキームになっています。

――ゲーム開発におけるこだわりはありますか?

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