スタートアップがイグジット(利益を得る)する方法は大きく上場(IPO)と買収(M&A)の2つだが、日本ではM&Aは否定的に見られがちだ。KDDIのインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」が主催するイベント「KDDI ∞ Labo open MEETing Vol.11」では、そんなM&Aでイグジットした2人の経営者が講演し、それぞれの思いを語った。
最初に講演したのはノボット代表取締役社長の小林清剛氏。同氏は大学在学中からコーヒー通販サイトの運営などを経験した後、2009年にノボットを設立。2011年8月には同社をKDDIグループのmedibaに売却している。
小林氏はまず、創業期の起業家に大事なこととして「魅力的なストーリーを語ろう」「最高のメンバーを集めよう」「誰よりも詳しくなろう」と3つの心構えを紹介した。
まずは何より、起業家や今後展開する製品やサービスに人を引きつけ、わくわくさせるようなストーリー作りが必要だという。そのストーリーに魅了されるからこそ投資家も出資を検討し、メディアも取り上げ、創業期のメンバーやお客もついてくるのだという。また、「なぜ。ユーザーが使うのか」「なぜ、ほかのサービスに勝てるのか」「なぜ、儲かるのか」といったことについては、どんなときにも話せるようにしておかなければならないとした。
メンバー集めについては、メディアなどを通じて必要な分野の人材をリストアップし、それを上から口説いていくくらいの心構えでそろえていくべきだとした。「友達にいい人がいないか聞く程度では、人材を探しているうちに入らない。TwitterでもLinkedInでもチェックをして、アプローチしていくべき」(小林氏)。また、優秀な人材であればあるほどに、たとえ見つかったとしても入社までに時間が必要となる。最低でも3カ月、長ければ半年程度の余裕を持って少しずつ関わってもらい、入社に向けて口説いていくべきだとした。
さらに、採用を考える人に対してはきっちりとレファレンス(採用に際しての調査、参照)をすべきだとした。これは人材の信頼性を担保するだけでなく、仕事のスタイルの好き嫌いなども含めて知ることで自社に最適な人材か判断できるからだ。また加えて小林氏は、「業界の第一人者に会いに行こう」「先輩創業者をメンターにしよう」「世界のイベントに行こう」と、会場に投げかけた。
次に登場した小澤隆生氏は、1999年にリサイクル品販売サイトの「ビズシーク」を創業して2001年楽天に売却。その後同社の役員や楽天イーグルスの立ち上げなどを担当したのち、エンジェルとして投資やコンサルティングを手掛けている。8月には自身が執行役員を務めるクロコスをヤフーに売却し、9月に設立したばかりのヤフーグループのベンチャーキャピタルであるYJキャピタルの取締役COOを務める。
自身の関わる会社を楽天、ヤフーの2社に売却した小澤氏。「日本ではM&Aでのイグジットについて、『志が低い』と思われる事が多いが、起業家の選択肢としては強く意識したほうがいい」(小澤氏)と語る。
その一方で自分自身の経験については、「早めに勝ちを狙ってしまう。これは人間性かもしれない」と振り返る。
ビズシーク時代、自身の手掛ける事業と通常のECサイトと組み合わせることで、より効果的なビジネスができると考えたという小澤氏。自らサービスを作ることも考えたが、よりスピードを出す方法としてM&Aという選択肢を選んだ。「次のステップとしての買収はよくある話。特に20代でできることは少ない。大きいアセットで勝負してみたいというのは健全なこと。楽天がぐんと成長する頃、(M&Aで)横から役員になった。こんなチャンスは新卒ならなかった」(小澤氏)
だが小澤氏は、「イグジットに正解はない」とも語る。「テクニカルにはいろいろあるが、生き様の問題。自分が何をやりたいのか、何のために生きているのか、そのために売るのか売らないのかを考えることが大事」(小澤氏)。
イベントの後半は、経営共創基盤マネージングディレクターの塩野誠氏がモデレーターとなり、前半で講演を行った両氏が「スタートアップのイグジット戦略」をテーマに語った。後半の様子はQ&A形式で紹介する。
小澤氏:1社目のビズシークは事業をやっていく中で(M&Aして)一緒にやることを考えた。2社目については、IPOとM&Aでのイグジットの両方があると考えていたが、M&Aを考えるうちの1社がヤフーだった。決め手になったのは人間関係。ヤフーにはもともと知っている人間も多かった。
小林氏:ノボットは最初からイグジットを考えていた。過去に2社の起業に失敗して借金を背負っている時期もあったので、30歳までに会社を売ろうと考えていた。
売るタイミングについては、ターゲットとなる市場の黎明期を考えていた。そのほうが従業員についてもいい条件をつけられると考えたから。
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