シャープが厳しい経営環境に置かれている。
同社が先ごろ発表した2013年3月期第1四半期(2012年4~6月)業績は、売上高が前年同期比28.4%減の4586億円、営業利益は941億円の赤字、経常利益は1038億円の赤字、純利益は1384億円の赤字。。
さらに、第1四半期の厳しい業績を受けて、通期業績見通しも下方修正した。売上高は4月公表値に比べて2000億円減の2兆5000億円、営業損失が同1200億円減の1000億円の赤字、経常損失が同1200億円減の1400億円の赤字、当期純損失が2200億円減の2500億円の赤字とした。
2012年3月期には3760億円という過去最大の最終赤字を計上したが、2013年3月期も2500億円という大きな赤字を計上することになる。
「業績悪化の要因は、AV・通信機器と液晶の2部門によるもの」とシャープの奥田隆司社長は語る。
第1四半期のAV・通信機器の売上高は54.9%減の1341億円、営業利益が前年同期の75億円から202億円の赤字に転落。そして、液晶の売上高は前年同期比22.4%減の1459億円、営業利益が前年同期の46億円の赤字から634億円の赤字に拡大。営業損失の3分の2を液晶事業が占めていることになる。
液晶事業がこれだけ悪化した要因はなにか。
ひとつは、なんといってもテレビ向けの大型液晶の不振だ。
第1四半期には、市場における需要減と在庫消化を優先したことによって、大型液晶パネル生産の堺工場の操業率が約30%にまで低迷。さらに、価格下落による追加コストの発生もそれに追い打ちをかけた。
堺工場は、稼働率が10%落ちると100億円の影響があるといわれており、操業率が30%に留まっている状態は業績悪化に大きな影響を及ぼす。単純計算を当てはめるわけにはいかないが、もし、100%の稼働率であれば、634億円の液晶事業の赤字は埋められる計算式が成り立つ。
また、2012年3月から9月までの半年間で600億円の在庫を処分するといった荒療治も行っており、これも赤字の大きな要因となっている。
実は、あまり報道されていないが、堺工場はまだ敷地が半分ほど余っており、そこに新たな生産棟を建設することができる。そこまで視野に入れた投資を行った生産拠点だけに、いまの状況は当初の思惑から大きくズレていることがわかる。
堺の大型液晶工場は、鴻海グループによる出資などにより、オフバランス化するといった思い切った手を打つことで、鴻海グループへのパネル割当などを実施。第3四半期以降は80~90%の稼働率になると見込んでいる。
2つめが、収益の柱と見込んでいた中小型液晶パネルの不振だ。
中小型液晶パネルについては、車載とスマートフォン向けを中心に生産している多気工場、天理工場はフル操業となっているが、亀山工場での不振が目立つ。
とくに収益回復の切り札としていたIGZO液晶の生産が遅れたことが響いている。今年3月からようやく量産を開始したものの、顧客先で進めていたデザインインが、商品化のずれ込みにより影響を受けた。関連して大口顧客からの受注減で稼働率が低迷。第1四半期も稼働損が出るという状況だ。
「この亀山工場での操業損は、通期の収益計画にも影響が残る」という水準だ。
亀山第1工場については、8月からスマートフォン向け専用工場として量産を開始。亀山第2工場でも今後、IGZO液晶の量産を加速させる姿勢をみせる。
「タブレットやウルトラブックなどに求められる、高精細、低消費電力といったIGZOならではの特性を生かしたい。Windows 8の発売なども追い風になる。2012年度下期から13年度にかけては新たなモニタやウルトラブックなどの需要が拡大すると見込んでいる」(奥田社長)と、IGZO液晶の需要拡大に期待を寄せている。
中小型液晶の立ち上がりがどうなるのかが、ポイントのひとつだ。
そして、もうひとつの誤算は、液晶事業に携わっていた人材が分散したことによる組織の弱体化だろう。
片山幹雄前社長(現会長)は液晶事業の出身。自らが経営を担っていた際に、液晶事業を担当していた人材を主要ポストに配置した。とくに課題となっていた海外事業の拡大において、こうした傾向が強く見られていた。
シャープ全体の経営を遂行する上では適切な判断だったのだろうが、これがシャープの液晶事業にはマイナスになったと捉えざるを得ない。
実は、今年8月3日の組織改革および人事異動で、シャープは液晶事業の強化に乗り出している。
液晶を担当するディスプレイデバイス事業統括の傘下に、ディスプレイ開発本部、ディスプレイ事業本部、海外生産推進本部を置き、さらにディスプレイ事業本部には、ディスプレイデバイス第1生産本部、同第2本部、同実装生産推進本部を新設し、これらの本部の拠点を亀山工場内とした。
そして、この人事異動で、かつて液晶事業を担当していた人材を呼び戻し、液晶事業の再生に取り組もうとしている。海外事業経験者や製品事業経験者を呼び戻すことで、IGZO液晶の立ち上げで遅れた顧客先とのデザインインの作業を、顧客視点で展開できるようにするという狙いもあるだろう。
液晶事業には片山会長ほど精通していない奥田社長だからこそ、シャープ再生の核となる液晶事業にキーマンを配置し直したという言い方もできる。
この組織改革が液晶事業の業績回復の切り札になるのか。これからの注目点のひとつともいえる。
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