いよいよ開幕を間近に控えたロンドン五輪。日本ではNHK・民放各局が連日、生中継を中心とした編成で熱戦を伝えるほか、これまでにない取り組みとしてインターネット上でのライブストリーミングを予定している。
NHK、民放がそれぞれ実施するライブストリーミングの対象は、原則として「放送予定のない競技・試合」。映像・音声は国際オリンピック委員会(IOC)が提供する国際基準映像となるため、日本語による実況や解説、字幕を含むスーパー表示などの日本向けの加工はされない。現地の映像をネット上で視聴する、と考えるとイメージに近いだろう。
サービスの実施にあたり、NHKは自局のウェブサイト「NHKオンライン」内に特設ページを用意。また民放テレビ各局は、132社共同で「gorin.jp」を新設した。NHKは全8チャンネルを用意し、利用料金は無料。民放「gorin.jp」も1チャンネルながら、無料で利用することができる。スマートフォンでの視聴については、NHKはサイトをスマートフォン利用に最適化、民放は専用アプリの配布(iOS、Androidとも)で対応する。
両者とも地上波放送コンテンツは避けているが、両者自身の配信コンテンツが重なることはある。いずれのサービスとも「放送サービスの補完」という立ち位置だが、たとえば海外有名プロ選手の出場する可能性のあるサッカー、テニス、バスケットボールなどの競技はすべてテレビ放送されるわけではないため、今回のサービスにおけるキラーコンテンツとなる可能性はある。
なぜ今回、ネットでのライブストリーミングが実現したのか。五輪やサッカーW杯など大型スポーツイベントについては、NHK・民放の共同体「ジャパン・コンソーシアム」(JC)が権利元との交渉にあたり、その後のコンテンツ制作までをJCで行うのが通例。民放のアナウンサーがNHKで放送される競技に実況をつけるケースがしばしば見られるのはこのためである。
今回、放送サービスとは経路の異なるネット配信が認められたということは、それを含む契約がJCとIOCとの間で結ばれたということになる。が、これはJCの側から強い要請をしたということではなく、IOC側の意向によるものが大きいとのこと。「テレビを見ない年代に対しても幅広く五輪中継を届けてほしい、というのが先方の意向」(日本民間放送連盟業務部)というわけだ。
ちなみにネット配信権自体は2008年の北京五輪から契約内に含まれており、これ自体がロンドン五輪の放送契約金額高騰と直接結びついているわけではない(要因のひとつと考えることはできるかもしれないが)。実際、NHKは2010年の冬季五輪(バンクーバー)で試験的ながらネット配信を実施していた。
民放が取り組むのは今回が初めてだが「ネット環境の拡大やスマホの普及、ネット動画配信へのニーズの高まりなどを考えて今回取り組むことになった」(民放連)と、実質的には試験的要素が強い。SNSなどとの本格的な連携についても見送られる方針で、サイト内での広告展開についても大規模なビジネスには発展していない。
8チャンネルを用意しているNHKは初の本格運用。こちらは技術面や制度面などの事前準備にかなりの労力が割かれたようだ。特に制度面では、放送法上で制限がかかる未放送コンテンツの配信にあたる(放送法20条2項2号)ため、「放送およびその受信の進歩発達に特に必要な業務」(同3号)を適用することで総務省からの認可を受けるなどの準備が必要となっていた。
NHK、民放とも次回以降の展開については未定だが、少なくとも日本語実況や字幕などが付加される可能性は低い。「本格的に番組を制作するとなると、テレビ本線と同様の人数やコストが必要。ネット配信に対する状況が変化している可能性もあるので断言はできないが、そこまで作り込むのは難しい」(NHK編成局デジタルコンテンツセンター長・松村隆博氏)。
放送サービスの補完として、見たいテレビ放映競技がないときのちょっとしたお楽しみとして。ロンドン五輪ライブストリーミングは、そんな気軽な利用が求められそうだ。
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