企業もクリエイターも、自らを成長させるために最良のパートナーを探している。これだけ変化が激しく、次々と新しいビジネスが起ち上がるネット業界で、企業が自社の成長を加速してくれる優秀なクリエイターを惹きつけるのは至難の業。一方で、エンジニアやウェブデザイナーといったウェブクリエイターが花形職種として注目を集める中、自らが希望する仕事に就くのもまた難しい。
本連載では、企業の技術者採用担当者とそこで活躍するウェブクリエイターへの取材を通じて、優秀なクリエイターを企業がどう惹きつけるか、その半面、ビジネスで必要とされるクリエイターとはどのような人物なのかを明らかにしていく。初回は、一部企業のクリエイター採用において起きている、ある「シフト」について考える。
5月にサイバーエージェントが、2014年度新卒採用エンジニア職において「コード採用」を開始すると発表した。「コード採用」とは、特定のテーマに対して、同社が最も多くのプロジェクトに使用しているプログラミング言語Javaを使用してプログラムを組み、ソースコードを提出するだけで、面接なしで内定を決定する採用方法。
同社は「10月末までに計33個のスマホ向けオリジナルサービスを提供する」と発表したとおり、スマートフォン関連ビジネスへのシフトを加速しており、その中心的存在であるウェブクリエイター採用を強化している。
グリーもこれに続いた。同社は6月1日に、新卒・中途を対象とした「GREE Programming Challenge」を開始した。就職希望者が同社のコーポレートサイトで出題されたプログラミング問題を一定時間内で回答するシステムだ。
サイト上では、プログラミングの途中経過がすべて記録され、プロセス、速度および正確さなどが総合的に評価される。一定の基準をクリアしたクリエイターは、従来の書類選考と一次面接が免除される。ネット業界の牽引役である2社が従来の履歴書、面接による選考から「実力主義」の採用にシフトしたことになる。
海外には、ウェブクリエイターの実力主義採用を推し進めているプラットフォーム「Stack Overflow Careers 2.0」がある。エンジニアのためのQ&Aサイト「Stack Overflow」に参加し、プロフィールを公開しているエンジニアを、企業の技術者採用担当者がスキルと場所で検索し、オファーを出せるサービスだ。2012年7月時点で、4万7683名のエンジニアが登録している。
またもう1つ、ソフトウェア開発プロジェクトを共有する「GitHub」というサービスがある。エンジニアは個人もしくは複数人のチームで行っている開発段階のソースコードを共有することができ、FacebookやTwitterと同様、ユーザー同士でフォローし合うことができる。これによって、エンジニアのソーシャルグラフが形成されている。
GitHub内で優秀とされる(=フォロワーが多い)エンジニアが、企業の技術者採用担当者から声をかけられる事例が生まれはじめているそうだ。これはGitHubの本来の使われ方ではなく、ごく稀な例ではあるが、そのような捉え方をしている採用担当者がいるのも事実なのだ。
日本にも到来しつつあるクリエイターの実力主義採用を後押しするサービスが、国内でも登場し始めている。アイ・アム&インターワークスが提供する「スキルプル」は、クリエイターがスキルと過去実績を公開し、企業の技術者採用担当者がオファーを出せるサービスだ。
履歴書や面接で重視されていた学歴や職歴、志望動機ではなく、開発の現場で必要とされる実力でウェブクリエイターが公平に評価される場を提供している。また従来は、企業の案件に対して複数人のウェブクリエイターが立候補する形式であったのに対し、スキルプルは企業がウェブクリエイターを指名するので、報酬の値崩れを防ぐことができる。
ネット関連企業の人材採用に詳しい、リクルートエージェント リクルーティングアドバイザーの山田大貴氏も、実力主義へのシフトを現場で感じていると話す。
「ウェブクリエイターの選考フローは、過去の成果物を重視する傾向がある。その背景には、スマホ向けのサービスを中心に、少人数でチームを構成することが増えており、個々人の裁量が大きくなっている状況があること。また、モバイル向けのウェブサービスはローンチした後に、高回転で改善することが重視されることが挙げられる。面接に進む前の成果物提出の段階で不採用になることが増えてきている」(山田氏)
ウェブの技術革新や新たなビジネスモデルの登場により、技術者採用担当者が持つべき視点、ウェブクリエイターに求められる資質は確実に変わりつつある。本連載ではウェブクリエイター採用の現場で起こるさまざまな新しい波を定点観測し、企業、そしてウェブクリエイターに気づきを提供していきたい。
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