2010年に相次いで立ち上がったクーポン共同購入ビジネス。各社はその激流のなかでさまざまな「Pivot(ピボット:方向転換)」の選択を迫られた。
前回のインタビューでは、ソーシャルコマースを軸に、その方向性を変えた「KAUPON」運営のキラメックスについて紹介した。後編となる今回は、シェアリーとの提携を発表した「Piku」運営のピクメディアについて、元同社の谷口優氏に聞いた。
Piku事業の中心にいたものの、谷口氏はキラメックスの村田氏と違い代表でも取締役でもなかった。彼は現在ピクメディアを退社し、新たにVESPERというフラッシュマーケティングの会社を設立し、同社の代表取締役を務めている。経営側でなく、現場の考える方向転換とその現実はどのようなものだったのか。
谷口氏:デイブや共同創業のマークなどとともに創業しました。メンバーはまだ5人ほどでした。当時同社が運営していた「English OK」の英語教育部門への参加ではなく、あくまでPikuを立ち上げるためのメンバーとして参加したので、経営にも近い立ち位置でした。(編集部注:デイブとマークとは、当時の代表取締役で共同創業者である森デイブ氏とマーク・ビアズリー氏のこと)
谷口氏:社名を(EnglishOKからピクメディアに)変更したのが2010年3月末。4月13日に最初のディール(クーポン)を掲載し、4月20日に正式オープンしました。5月と7月には資金の調達も実施しました。
谷口氏:そうでしたね。4月20日の時点で5人だったのが、6月から7月で30人ぐらいになり、年末には120人になっていました。途中からですが、私は人事面接から少し距離を置くようになってました。あまりの勢いで人材獲得すると質の面が追いつかなくなるのです。
谷口氏:ある時から経営と資本(株主)のバランスが悪くなった。つまりリーダーシップがどこにあるか分からなくなった。特に大きな資本が入ってる(編集部注:当時ピクメディアの株の過半数は独Rebate Networks GmbHが所有していた)ので、株主側の意見が強く、拠点数やスタッフ数などの数字ばかりが重要視されるようになったのは印象に残ってます。
やはり自分も株主ではあるけれど、持っているのは数パーセント。経営陣も実はほとんど持っていなかった。結果、議決権どころか拒否権もない状況で、相手(株主)が話を聞いてくれない。経営会議ではかなり熱くなって提案もしたが難しかった。
谷口氏:2010年の8月頃でしょうか。とはいえ、現場や周囲の状況は激しく変化していました。営業活動はすべて私が見ていたので、ディールの質を上げたり、(共同クーポン購入サービス各社で)色々な事件が起こる中でもユーザー目線を忘れないようにしたりといった努力はしました。同時に経営や株主に対して提案も続けてましたね。
谷口氏:最初に話を聞いたときは、正直ビジネスモデルが破綻してると思いました。同時に大学時代に心理学を学んだ経験から、このビジネスの根底に流れるものに惹かれてもいました。海外で露呈している問題点を洗い出して、それを解決すればすごいことになる、と。
谷口氏:当初森氏たちにお願いしたのは、私がCEOとして参加することでした。ただ、私には経営者としての経験がなかったので、まずは役職でなく彼らから学ぶことを優先しました。また前職では3年間、3分の1くらいをシリコンバレーで過ごしていたので、このビジネスを日本でリファインして逆に輸出したい、という気持ちが強かったです。
谷口氏:1月頃までは次の増資について具体的な動きもありました。さらにその頃には私が代表になる、という話もあったのですが、何を言っても首を縦に振ってもらえない状況だったので、続けていくのも難しいと判断しました。
先に話した通り、私には「このビジネスの問題点を洗い出して解決する」という目標がありました。その方法をすでにやってる人がいればあきらめもついたでしょうけど、まだいない。この状況でこのビジネスをやめるという決意はできませんでした。ですがここ(ピクメディア)ではもうできないとなったので、新しく自身の会社を立ち上げました。
谷口氏:方向転換もそうですが、経営にとって大切だと思っているのが「フィロソフィー(哲学)」です。私はこの1年で、やってはいけないことも含めて多くを学びました。すべてのコントロールを(株主や経営陣に)渡してしまうと自分の哲学が通せない。それでは方向転換も難しいのです。
2回に渡りお送りしたインタビューはいかがだっだろうか。両氏は、スタートアップとしてはかなり早い段階で、難しい舵取りを迫られていたようだ。一方は経営者、一方は現場。その二人が取り得た転換の方法は当然違うものだったが、意外にも共通していたのは「起業家としての信念や哲学」の重要性を語ったことだった。
経営にはさまざまな情報収集、テクニック、知識、チームワークが必要であることはいうまでもない。しかしこういう大きな決断をするとき、起業家は自然とその信念や哲学に立ち返るのだということを教えてくれたように思う。
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