クーポン共同購入に挑戦したスタートアップの方向転換--キラメックスの場合

 最近よく耳にする言葉に「Pivot(ピボット:方向転換)」がある。身軽なスタートアップにとっては、柔軟に事業の方向性を変えることも生き抜く上での戦略だろう。とはいえ、一度決めた事業の方向性をどこまで変えることができるのだろうか。

 2010年に日本で始まったクーポン共同購入ビジネスも、激流のなかでさまざまな方向性の選択を迫られたビジネスの1つだ。日本で最初にこのビジネスに取り組んだ「Piku」を運営するピクメディア、2番手である「KAUPON」運営のキラメックスも、それぞれ“Pivot”を行って新たな道を模索している。

 ピクメディアは8月1日、同じくクーポン共同購入サービス「シェアリー」を運営するシェアリーと業務提携を発表。人的交流に加えてクーポンの提供を受けることで、経営の再建を進めている。

 一方のキラメックスは、単純なクーポンの共同購入サービスから脱皮し、ソーシャルグラフを通じて生まれる消費需要をもとにした「ソーシャルコマース」の実現を目指している。

 彼らはいつ、どのような経緯で方向転換を決断したのか。それぞれ事業の中心人物に話を聞いたので、前編・後編の2回に分けてインタビューをお送りする。

クーポン共同購入からソーシャルコマースへの舵切り--キラメックス代表取締役社長 村田雅行氏の場合

 日本で二番目に公開されたKAUPONは現在、横並びのクーポン共同購入サービスからソーシャルコマースへの脱皮を模索している。いつ、どういうタイミングでその方向性の模索に入ったのか。サービスを運営するキラメックス代表取締役社長の村田雅行氏に話を聞いた。

--創業からここまでの流れを簡単に振り返ってもらえますか?

村田氏:会社自体は2009年2月に創業しました。半分は受託をし、半分は開発や準備をしながらKAUPONを立ち上げたのは2010年の5月です。6月には個人投資家を中心に出資を受けて、その後グロービス・キャピタル・パートナーズから2億円の調達をしました。9月頃のことです。

キラメックス代表取締役社長の村田雅行氏 キラメックス代表取締役社長の村田雅行氏

--サービスを立ち上げてすぐ黒字化したと聞きました。

村田氏:はい、KAUPON始めた初月から3カ月間は黒字でした(笑)ですがその後は、“次”を準備するために、人を増やしたりして収支を合わせる感じで経営を続けています。

--2010年の同時期に始めた事業者が撤退や統合を発表するなど、周囲の環境は大きく変化しています。

村田氏:そうですね。ただ、私も「フラッシュマーケティングをやろう」というだけでこの事業を開始したわけではありません。今も、もともと考えていた方向に向けて準備しています。

--周囲の動きは激しいですね。

村田氏:予想通りかな、と思っています。特に2010年、周りの事業者がテレビCMやオンライン広告を大量に打ってたときには(もうこうなることは)理解してました。以前からフラッシュマーケティングというビジネスはある“式”で成り立っていると考えていたからです。

 流入数、転換率、客単価、掲載数――これがすべて最大化すると、売上や利益が最大になる。この公式で周囲を見ると、流入数と掲載数にお金をかけているのが実はほとんどです。

 流入はリスティング広告やCM、掲載数は営業を増やして獲得数を伸ばす――色々なランキングで売上の上位を占めるクーポン共同購入サービス事業者は、この2つを最大化しています。ここでの最も大きな問題は、ユーザーも店舗も、1つの事業者へ依存する理由がないことです。

--つまりその事業者に掲載するかどうかはあくまで掲載の条件次第であり、実際のところはサービス事業者はどこでもいいと?

村田氏:まず店舗はクーポンが売れるところであればどこでもいい、ということになります。折角お金をかけてユーザーをとっても(店舗には)あまり意味がない。クーポンを利用するユーザーも、ほかにいいクーポンがあればそっちにいってしまう。

--KAUPONはどう動きました?

村田氏:実験的にですが、いかに「客単価と転換率を上げるか」という実験をしてます。特に転換率は100人来たら何人買うかという数値なので、ここに自分達がいま取り組んでいるソーシャルコマースがどのように影響を与えるか追求してます。

--KAUPONはソーシャルコマースへの方向性を打ち出してますよね。これは最近の周囲の動きに合わせて自分たちの道を模索した結果と言えるのでしょうか?

村田氏:いいえ。もちろん最初はKAUPONもいわゆるクーポン共同購入サービスでした。しかし2回目の調達する前あたりでしょうか。2010年の8月頃には、周囲から「安いものを売っても続かない」という声が聞こえるようになりました。そういうビジネスは本質的ではない。10年も続かないだろう、と。

--方向転換に際してどのようなことに努力しているのでしょうか?

村田氏:まずソーシャルコマースというものがない。ゼロからまったく新しいものを生み出すことは大変です。それとやはり開発者の獲得には努力をしてますね。現在18人ほどのメンバーのうち、開発に関わるのは私も含めて4人ほどです。

--結果的にソーシャルコマースへの方向転換はうまくいっていますか?

村田氏:フラッシュマーケティングはサービスをチケットとして販売する、というスタイルが革新的でした。すべてのローカルビジネスがオンラインから直接オフラインにお客を連れてくることが可能になったということです。

 我々も今秋にリニューアルを考えてますが、この方向性は間違ってないと信じています。安売りとかタイムセールだから買うというものではなく、より本質的に価値のあるサービスにしていくつもりです。

--事業を方向転換する際、重要なことは何だったと考えています?

村田氏:事業に対するビジョンです。「埋もれているいいものをインターネットを使って表に出そう」という理念を表現するためにクーポンという方法をとりました。もしこの手段にほころびがあるのであれば、その手段を変えればいいだけのことです。この軸がブレないことが大切だと思います。

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