国内で広く普及したNTTドコモの「iモード」。その開発者をして、iPadをこう称賛せしめる。
「これこそがドリーム・デバイスです」
夏野剛さんはドコモにいた1999年に、携帯電話を活用したインターネットサービス「iモード」を立ち上げた一人であり、育ての親だ。モバイルインターネットを国民に浸透させた夏野さんは、いま、iPadに陶酔している。
現在は慶應大学大学院で教鞭を執るほか、「ニコニコ動画」を運営するドワンゴや、セガサミーホールディングスなど、複数の企業の取締役を務める多忙の日々。だが、移動時の必携アイテムは増えるどころか、折りたたみ式の携帯電話とiPad 2だけになった。
「もう、iPad 2とガラケーだけあれば十分。財布すら持っていませんよ。何の問題もなし」
鼻息荒く話す夏野さんのiPad 2のケースには、クレジットカードや身分証明書などが収められている。コンビニでの買い物は、ガラケーの強みでもある「おサイフケータイ」で。iPhone4も所有しているが、アドレス帳などの機能面でガラケーに「一日の長がある」と言い、通話端末としてはほとんど使っていない。
夏野さんは、iPhone発表のときよりもiPadのときのほうが、はるかに大きな衝撃を受けた。大きな画面による一覧性の高ウェブ閲覧に感動したのだという。「クラウドって結局、ウェブ閲覧ですべてを済ませられること。スケジュールしかり、ファイルしかり、クラウドで管理するためにはブラウジングの機能性と使いやすさが求められる。どこでもすぐに使えて一覧性の高いiPadは、クラウド時代に最も適したデバイスです」
iPadで確認しやすいように、スケジュールはGoogleカレンダーを使い、仕事のメールはGメールに変えた。移動中はツイッターやフェイスブックなどを見る時間が長い。
講義で使うような少し複雑な資料は、自宅にいる間にMacBook Airなどで作成する。だが、手の込んだレイアウトを必要としないかぎり、iPadのアプリ「メモ」にどんどん書き込んでいる。海外出張時の英語スピーチ原稿や、子どもの幼稚園受験での面談想定質問までiPadで打ち込み、管理している。
入力に便利なiPadやiPhone用のモバイルキーボードも売られているが、薄く軽くなったiPad 2のメリットを損ないたくないのと、荷物を増やしたくないのとで使っていない。
「iモードでやりたかったのは、携帯電話を1個持っているだけで、ウェブにしろおサイフにしろ、すべてが完結する世界を創り出すこと。ただ、私がドコモにいたときは、タッチパネルが現実的ではなかった。iPadを見た瞬間に、『越えてくれたな』ってピンときました」
iモードは、コンテンツを提供する他の企業(サードパーティー)も巻き込んだビジネスモデルとして成功を収めた。iPhoneやiPadなどのアプリで活気づくアップルのビジネスモデルも似通っている。だからこそiPadの操作性の高さに、余計に魅力を感じると話す。
iPadの発表の際、アップルのスティーブ・ジョブズCEOはソファに座ってプレゼンをし、一見プライベートで使うのに適した端末であるかのような印象を与えた。だが、夏野さんはiPadこそビジネス利用に適していると強調する。
ミーティングにそれぞれがノートパソコンを持ち込み、ウェブ検索や資料確認をする姿は、本来人間と人間が話し合う場なのに、人間とコンピューターが「一対一」の関係になっているという。 「ノートパソコンを開いた時点で、モニターが相手との壁になってしまう。開いた人のところだけ違う空間になっているんです。壁の向こう側の手元が見えない状態でカタカタとキーをたたくのは、年配の相手だったら不快に感じるはず。会議が冷めることもある」
だが、iPadは違う。
「iPadなら相手に見せてあげられるし、みんなで覗き込むようにして情報を共有できる。コミュニケーションを阻害しないんです。会議で適当なことを言って話を進めないためにも、iPadでウェブ検索し、情報の裏づけをみんなで取りながら進行していけば、会議の密度は、必ず濃くなります」 ネットというバーチャルな世界とミーティングのリアルな世界を連携させる。iPadならではの強みを実感している。
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