解説:富士通の「生体だけでの認証技術」がスゴい理由

 富士通研究所は6月1日、手のひら静脈と指紋を用いた、100万人規模の認証を2秒以内で行える認証技術を開発したと発表した。

 富士通研究所社長の富田達夫氏は、「“100万人規模では少ないのではないか”“2秒以内では長すぎるのではないか”というように感じるかもしれない。しかし、そうではなく、むしろ、100万人規模、2秒以内というところに大きな意味がある」と語る。

富田達夫氏 富士通研究所社長の富田達夫氏

 たしかに、生体認証技術は既に多くの分野で実用化されており、日常的に利用している人も多いのではないだろうか。銀行ATMに採用されている手のひら静脈認証をはじめ、指紋認証技術もさまざまな場所で活用されている。

 しかし、不特定多数の人が利用する可能性がある場所で採用されている生体認証技術のほとんどが、「IDカードやID番号との組み合わせ」で認証するものであることを思い出してほしい。つまりここで行われているのは、IDカードやID番号とひも付いたデータとの1対1での照合、またはある程度対象を絞り込んだ情報に対しての照合なのである。米国の入国審査で使われている指紋認証システムも、パスポートとの組み合わせによって短時間で認証することができるものだ。

 今回、富士通研究所が開発した技術は、「生体情報のみ」で認証をするという点がこれまでのものと大きく異なる。

 東日本大震災では、被災によって印鑑やキャッシュカード、免許証など「個人を認証するもの」を失った人が多くいる。そのため、金融機関の口座から現金を引き出すことができなかったり、戸籍の確認ができなかったりといった問題が発生していた。今回、富士通研究所が開発したこの技術を使うことにより、こうした非常時にも精度の高い個人認証が可能になるわけだ。

 100万人という規模は、企業グループや、日本における中小規模の地方自治体といった範囲では十分に活用できるものであり、富士通研究所が100万人規模を最初のターゲットとした狙いもここにある。

 そして、2秒というスピードはストレスなく待てる時間を実現したものであり、認証のたびに大規模なデータベースと照合するという作業を短時間で行うための工夫が凝らされている。

 手のひら静脈センサおよび指紋センサは、これまで富士通グループで製品化してきたものを利用しており、手のひら静脈情報と、指3本の指紋情報を一度に読みとって登録する。これを100万人規模のデータベースと照合するのだ。指に怪我をしていた場合にも、3本指と手のひら静脈の組み合わせによって、認識率を高めているという。

手のひら静脈と指3本の指紋情報を一度で読み取れるセンサ 手のひら静脈と指3本の指紋情報を一度で読み取れるセンサで利便性を高めている

 「単純に1対1の認証を100万回繰り返すと、その作業だけで数十分かかる。そのため、まずは手のひら静脈と3つの指紋から、『絞り込み用特徴情報』に基づいて抽出する絞り込み処理により、100万人を1万人規模とし、そこから識別処理を行い特定する。識別処理は正確に認証するための作業となり、システム全体の識別処理時間の5%程度で、高速性を実現する」(富田氏)

 まずは軽い処理で済む方法で絞り込み、絞り込んだあとに、より精密に識別するための重たい演算処理を行うというわけだ。

 さらに識別処理の並列化技術を採用することで、100万人分のデータを等負荷に分散して、並列処理する技術も実装した。識別人数に応じた処理サーバの増減が可能で、クラウドと組み合わせれば簡単にリソースを拡張して、効率的な処理ができるようになるという。自治体での利用を想定した場合、市町村合併などで識別対象となる人の数が急激に増えた場合にも、柔軟に対応できるというわけだ。

 「東京や大阪、神奈川といった大規模都市を対象にするには、1000万人規模の認証が必要であり、さらに国レベルになれば1億人規模での認証が必要になる。精度と確度を高め、まず2011年度には、2秒というストレスのない時間を維持しながら、1000万人規模での認証を可能にしたい。引き続き改良を加えていく」という。認証可能な規模の拡大によって、この技術が応用される範囲は広がりをみせることになるだろう。

識別処理の対象データが増えた場合でも、計算ノードを追加することで効率的な並列処理が可能という 識別処理の対象データが増えた場合でも、計算ノードを追加することで効率的な並列処理が可能という

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