「顧客の要求でSaaS(クラウド)に参入したものの、体制づくりや人材育成、料金体系などで模索を続け、事業としての収益性も厳しい」--こんなソフトメーカーの現状が、社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)が行った調査から浮かび上がった。
CSAJでは、SaaSビジネスに取り組んでいる会員42社を対象に、SaaSおよびクラウドコンピューティングに関する調査を実施したという。これによると、収益面では「採算分岐点に到達していない」企業が58%に達しており、「採算分岐点を超えている」の15%、「おおむね採算分岐点に達している」の27%を上回った。先行投資型のSaaS、クラウドビジネスは、まだ投資フェーズとの見方が強く、参入した企業の収益性を悪化させているとの指摘も出ているが、過半数が採算割れの状況となっている今回の調査結果は、それを裏付けるものとなりそうだ。
調査対象として独立系ソフトウェアメーカーが多いことから、SaaS事業への投資規模は、1000万円未満が40%、1000~3000万円未満が27%と、3000万円未満で約7割を占めている。大規模なデータセンターを展開しているベンダーは少なく、1社だけが3億円以上と回答しているが、少ない投資額でも採算を確保するのは厳しいようだ。
SaaS向けのソフトウェアの開発方法としては、「新規に開発を行った」とした企業が42%に達し、「自社の既存のソフトウェアパッケージを基にして開発した」と回答した企業の36%を上回った。残り22%は他社製品やサービスを取得したとしている。
料金設定については、「アプリケーション価値に基づく料金設定」が54%と過半数を突破。「投資コストをベースに料金を設定」が17%となった。料金設定については、同業他社の料金設定や市場価格を基にするなど、手探り状態であることを示す回答も寄せられた。
一方で、SaaS提供事業を開始した理由としては、「導入・保守負担軽減によるマーケット拡大」が43%と最も多かったが、「顧客からSaaS、クラウド形態での提供を求められたから」とする回答も40%に達しており、顧客主導での参入という側面も強い点が注目される。
では、SaaSおよびクラウドに参入した企業はどんな不安を持っているのだろうか。
最も多いのが「セールスや販売チャネルの問題」で、50%の企業がその点を指摘した。さらに、「課金の仕組みを構築できるかどうか」の29%、「人材面の不安」の24%と続く。ビジネスとしての「体制づくり」に関しての不安が先行しているのが実態であり、まさに事業の初期段階の苦悩が見受けられる。
事業参入に当たって参考にした情報としては、同業他社の事例が48%と最も多く、さらに「参考にできる情報がなかった」とする回答も24%に達するなど、やはりここでも手探り感が否めない。
パッケージベンダーなど、ソフトウェアを手がける企業の多くは、SaaSおよびクラウドへのビジネスモデルの転換が不可避でありながら、そこでの苦労が続いているのが現状だ。今回の調査結果をみる限り、業界全体として、まだまだクラウドビジネスを加速する体質づくりができていないという印象を受けた。
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