2011年のモバイル業界展望--SIMロック解除における3つの重点

 外資系金融機関にて、リサーチアナリストとして通信セクターを担当している立場から、2011年のモバイル業界を「SIMロック解除」「スマートフォン」「LTE」の3テーマで展望する。

 第1回目は、SIMロック解除について論じる。SIMロック解除について筆者は以下3点に注目している。

  1. 2011年4月に導入された際の実質的な影響は?
  2. 既に態度表明をしたNTTドコモに対し、ソフトバンクモバイル(SBM)がどのような対応を取るか?
  3. 骨抜きSIMロック解除ガイドラインで見落とされた重要なポイントとは?
の3点だ。以下、それぞれ詳述する。

現実論としてまったく無理

 2010年6月に総務省より「SIMロック解除に関するガイドライン」が出されたことは記憶に新しいだろう。

 このガイドラインでは、「2011年度(平成23年度)以降、新たに発売される端末のうち、対応可能なものからSIMロック解除を実施する」と記載されている。一方、ガイドラインをよく読めば「自社の販売する端末がより広汎に利用可能となるよう努めることが望ましい」ともされている。

 ガイドラインでは法制化するものではなく強制力は無いため、あくまで通信事業者を管理監督する総務省からの協力要請であるという受け止め方が、業界関係者や当該産業を外部から分析する筆者のような立場の人間では一般的な見方だ。もはや説明は不要であろうが、NTTドコモとSBMはW-CDMA、KDDIはCDMAという通信方式の違い、さらにそれぞれの事業者に割り当てられている周波数の違い、iモード、EZWeb、Yahooケータイというサービスプラットフォーム仕様の差分など、これらを一同に吸収することが可能な端末を各社が開発し、発売することは現実論として無理である。

総務省の真の狙いと課題

 そして、ユーザーにとっては3社の異なる仕様差分を吸収する端末により、端末購入価格の上昇という形で跳ね返る可能性もあり、まったく意味の無いことは同ガイドラインを作った総務省も十分に承知しているはずだ。このガイドラインを導入する総務省の真の狙いは、各社がLTE(Long Term Evolution)を導入する2012年以降の「スマートフォン」。しかし、これも当面は影響が無いだろう。

キャリア 種別 800Mhz帯 1.5Ghz帯 1.7Ghz帯 2Ghz帯
ドコモ 音声 W-CDMA W-CDMA W-CDMA W-CDMA
データ HSPA LTE HSPA LTE/HSPA
KDDI 音声 CDMA 1X CDMA 1X - CDMA 1X
データ LTE/EVDO LTE - EVDO
SBM 音声 - W-CDMA - W-CDMA
データ - DC-HSDPA - LTE/HSPA
(出所)各社資料から作成

 上表の通り、LTEを導入する周波数帯は各社それぞれに異なる。加えて、音声呼(音声の発信や着信)はLTE圏内であっても「CSフォールバック機能」により、引き続き現行の3Gを利用する。LTEはあくまでデータトラフィックを補完するものと位置づけているのである。

 このような状況から、各社は総務省のガイドラインの理念は理解しつつも、現実論としては各社各様の周波数や運用する方式の違いを吸収し、すべての事業者で利用可能な機能を具備した端末は、2015年3月頃の各社のLTEのカバレッジがある程度整った時点でも難しいと考えているのではなかろうか。

 さらに、各社とも他社に移行し、そのまま利用することが可能な端末を仕様化して、調達し、販売するモチベーションなど一切無いというのが本音だろう。2011年の4月以降に導入されるであろう、SIMロック解除が可能な端末もほとんどその意味をなさないのではないだろうかと筆者は考える。

 同様のことは総務省のガイドラインでも示唆されており、SIMロック解除の議論の発端となった2007年に策定された「モバイルビジネス活性化プラン」にて、「3.9Gや4Gを中心にSIMロック解除を法制的に担保することについて、2010年の時点で最終的に結論を得る」との記載を引用しつつ、上述のサービス等の互換性が確保できない課題が存在することから、法制化は時期尚早と判断したのである。

 以上詳述したとおり、SIMロック解除がなされるであろう2011年4月以降も当面は各事業者に影響は無い、というのが筆者の基本的な考えだ。

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