WEBにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。日清食品「ラ王」の「追湯(ツイトウ)式典」&「復活」イベントには、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
「追湯式典」は、同社のカップラーメン「ラ王」が2010年8月末で生産を終了する、という告知とともに始まったキャンペーン。まず新聞で「ラ王、終わる。」というコピーで生産終了を宣言。その後、特設サイトを設け、ツイッターで、追悼文ならぬ追湯文のツイートを募集しました。応募者には抽選で「ラ王」が1ケースもらえるというもの。
「ラ王」は1992年に発売された、生めんタイプのカップ麺。一時期は爆発的なヒット商品であったために、生産終了を惜しむ声が全国から20万件以上寄せられました。またその様子は、色々なメディアに取り上げられました。
しかし、キャンペーンが終わってからたった4日後、「ラ王」が復活するという発表があったのです。生麺からノンフライタイプ麺の「新生ラ王」に切り換えて、9月6日から関東甲信越静岡地区で、10月4日から全国で発売するというもの。この発表には、「ラ王」を追湯した多くの人々が、怒ったりあきれたりするコメントをツイートしました。
また「ラ王」復活のニュースは、ネットでもマスメディアでも大きく取り上げられました。記事にはファンが怒っているというネガティブなトーンのものも数多くありました。
しかし、そういったネガディブな感情も含め、話題になっているのは、生活者の心が動かされた証拠とも言えます。では何が受け手の心を動かしたのでしょう。
それは、「ラ王」の「追湯式典」&「復活」イベントに、ストーリーがあったからです。まず「追湯式典」は、追悼にひっかけ、ツイッターのツイートにもひっかけている秀逸なネーミング。最近、食べてなかった人々に対して、「ラ王」の栄光を思い出させる効果が充分にありました。そうやって感情移入した所に「復活」という意外性。そのドラマに人々の感情は大きく動かされたのです。
確かに、「生産終了」とさんざん煽っておきながら、たった数日で「復活しました」というのは、あまり賢いやり方ではないかもしれません。もう少し待って、多くの「追湯」の声に押される形で「復活」とすれば、より多くの人に納得してもらえるストーリーになったでしょう。
しかしこうやって、追湯の熱がある間に、強引ともいえる形で復活宣言したからこそ、ネガティブではあるにせよ大きなニュースになり、受け手の気持ちを大きく動かしたのです。今は絶対に買わないと言っている人間も、いざ「新生ラ王」が発売されたら、一度は食べる可能性が高いとみたのでしょう。
この判断が正しかったか、間違っていたかは、「新生ラ王」の実際の売れ行き状況を見てみるまでは何とも言えません。そういう意味では、このキャンペーンの成否にはとても注目したいと思います。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のWEBコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)
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