アーティストの意図を伝える究極のインナーイヤーヘッドホン--Shure「SE535」 - (page 3)

堀江大輔(D☆FUNK)2010年08月27日 16時50分

複雑なアレンジをすべて聞かせるバランスの良さ

 では、いよいよ試聴に移ろう。まずは、Sheryl Crowの「SUMMER DAY」。西海岸テイストのスコーンと抜けた明るい曲なのだが、ギターが3本以上、ベース、ドラム、キーボード、さらにホーンセクションにストリングスと音に厚みがある曲だ。さらにボーカルにはいくつものコーラスが入る。下手なヘッドホンでは何がなんだかわからなくなるような曲だ。

  • キャリングケースと標準プラグ用変換アダプタ、ボリュームコントローラーと飛行機用のアダプタなども同梱されている

 前モデルSE530と比較視聴したのだが、一聴して愕然とするほどの音の差に驚いた。タイトなスネアと張りのあるベースがリズムを支え、ギターのバッキングの音の違いが如実に表れる。芯のあるボーカルが、前面に出て、お腹から声を出している、その響きまで感じる。

 複雑なアレンジのすべてが聞こえてくるので、この1曲が様々なスパイスがかかったごちそうになったかのような、聴きどころだらけの曲に変わる。ストリングスはきちんとバックに下がって、フロントの舞台を邪魔することはない。コーラスも芯のあるボーカルと分離して聞こえてくる。奥行きがあることで音のスペースができて、それぞれの楽器がバランスよく配置されるのだ。

 前モデルSE530と比較すると、空間がクリアになりそれぞれの音像がハッキリと見えてくる。ボーカルもギターもバックのオーケストラも音に芯があり、実態を持っているのだ。ただ、ベースの低音は、それほど前に出てこない。個人的にはちょうど好きなバランスでこれ以上出ると嫌なのだが「ロックはベースがブンブンうなっていないとダメ!」という人は不満に思うこともあるかもしれない。

 楽器自体の音質はどうなるのかと思い、Bill Evansの名盤「Waltz for Debby」を聴く。音はひたすら優雅。ベースが強調されることなく、バランスが本当によい。全体がクリアだからピアノの倍音成分がキレイに伸びていく。特に2分10秒くらいから続く、ピアノソロが高いキーに移動していく部分はとてつもなく美しい響きが聞ける。SE535の音を聴くと、前モデルのSE530は、どうしても音像が曇っているように感じてしまう。Village Vanguardのタバコの煙がこもりすぎて全体が鮮明に見えなく感じてしまうのだ。

 The Chemical Brothersの「Swoon」はブレイク前のライブ会場で体験したときと同じようなエネルギーがある。会場のすべてを踊らせていた、頭の中味を振り回す圧倒的な迫力。全盛期の姿を彷彿させる音だ。というか、元々入っていたのに、音のバランスが悪くなると伝えようとしている音楽と乖離を起こしていたのだということがわかった。

フィットするイヤーパッド選びが肝心

 いろいろな曲を聴いているうちに、冷静でいられなくなり、書き方がどんどん抽象的になってしまうが、要は音楽が元々もっているべきノリ、アーティストがスタジオで録音した意図がそのまま伝わってくるような音を聴かせてくれるのだ。

 それぞれのイヤーパッドによる音の違いも試した。フォームとイエローフォームはほとんど同じ音質。フォーム型の方が若干低域がよかったが、すべてにバランスがよい同質の音になった。ソフトフレックスイヤパッドでは、全体に音が薄くなった感じ。とくに中域に芯がなくなってしまう。トリプルフランジは筆者の耳にはうまく入らなかった。基本的には最初からついているフォームタイプで使用し、自分に合ったサイズを選べば良いと思う。

 フィットするイヤーパッドさえ選べれば、ロック、ジャズ、クラッシック、J-POPまで、ジャンルを選ばず、どの曲も魅力的に聴かせてくれる。実売価格は約5万円と高級だが、今まで聴いたヘッドホンの中では個人的には一番気に入っている。「なんでケーブルが変わるだけでこんなに音が変わるんだ」というほど前モデルよりも音がクリアになっている。ハイファイとしても優秀なスピーカーだが、ギターを弾いたりバンドを組んだりしたことのあるようなプレーヤー志向の人には、ほかに得難い魅力的なヘッドホンだろう。

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