ベンチャー企業が自社の製品やサービスで「キャズム」を超えるためには、自社の製品やサービスが対象となる市場を最初から独占しようと考えるのではなく、広い市場をいかに分割し、分野ごとに攻略していくかが重要になる。
前回の連載で事例として紹介したディジタルメディアプロフェッショナル(DMP)は、まさにこれを実行してキャズムを超えたベンチャー企業の1社だ。今回はグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)シニア・アソシエイトの井出啓介氏と、DMP代表取締役兼CEOの山本達夫氏の2人に、“キャズムを超える”までのストーリーを聞いた。
--GCPで井出さんが担当されている分野について教えてください。
井出:GCPは幅広い分野で投資を行っていますが、その中で私はコアテックを担当しています。コアテックというのは、「IT」に対しての「コア」という意味です。ITがインフォメーションやユーザー寄りであるとすれば、コアテックはファームウェアや組み込み技術といったハード寄りの分野になります。ですので、現在はDMPのように半導体のIP(Intellectual Property:半導体の知財)を作っている企業をはじめ、半導体要素技術の企業や通信系の企業を担当しています。
--DMPについて教えてください。また、山本さんはどういう経緯で同社に参画されたのですか。
山本:DMPはグラフィックチップのIPコアを設計し、販売している企業です。2002年の7月に法政大学教授の池戸恒雄が大学発のベンチャー企業として創業したのが出発点です。池戸はそれ以前から3Dグラフィックスの研究をしていましたが、彼らが蓄積してきた技術を、ベンチャーキャピタル(VC)のジャフコが発掘し、投資するに至りました。
当初は、NVIDIA、AMDといった企業が開発しているようなハイエンド向けのグラフィックチップに果敢に挑むという事業戦略をとり、PC向けのグラフィックチップ開発を行っていました。しかし市場性や現実性という点で基本的な難点があったことや大学発ベンチャーでマーケティングが弱かったということもあり、ある程度のところで壁にぶつかっていました。私は当時、長くIBMで製品開発や商品企画を担当したあと、ルネサス テクノロジの米国法人にいたのですが、ジャフコからお声がけがあり、2004年の3月にDMPのCEOに就任しました。
--DMPは2004年にGCPをはじめとしたVCから13億5000万円の出資を受けています。そこに至る経緯をそれぞれの視点から教えてください。
山本:弊社はこれまで4段階のラウンドに分けて資金調達しています。私がCEOに就任したのが3ラウンド目で、ちょうどそのときですね。
井出:まだ私がGCPに入る前の話ですが、1、2ラウンドでもコンタクトはあったものの、当時の事業戦略にはGCPとして合意できていなかったそうで投資に至らなかったようです。PC向けのマーケットで成功できるかということについて、「難しいだろう」と判断していました。その後、山本さんがDMPに参画し、組み込み向けに事業転換するという事業戦略を見て、キャズムを超えるためのステップがすでに作られていたことから出資に至りました。
--DMPに山本さんが入られた時点で、会社はどういう状況にあったのですか。
山本:考え方というレベルでは技術があるものの、それをどう製品化するかというのがまだ見えていない状態でした。
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