NECが11月6日、空前の出来高をこなして大幅高となった。同日朝、最大5億7500万株の新株発行と株式売り出しを実施すると発表。通常なら新株発行、株式売り出しなどのファイナンスは株式市場における1株当たり価値の希薄化、需給悪化を招くため、敬遠される材料となることが多い。同日の株価急騰の裏には、NEC株の株式市場における低評価が見え隠れしている。
NECは今回の増資で手取り概算、最大1340億円を調達。公募・売り出し価格は11月18日から20日の間のいずれかの日に決定するスケジュールだ。
株式市場では、一般的に売り材料となる公募・売り出しが好意的に受け止められるケースがいくつかある。1つは明確な成長戦略を示しているベンチャー企業などが成長のための資金を株式市場から調達する、前向きなファイナンス。そういったベンチャー企業は企業規模とともに株式市場でも流通する株式が少ない超小型株であることが多い。流通する株式が増加しても需給悪化までは至らず、流動性向上という前向きな捕らえられ方をする場合がある。
もう1つは財務内容が危機的な状況にある企業。株式市場における希薄化や需給悪化よりも、目先の財務内容改善や運転資金調達により、目先の企業としての活動継続を好感される場合だ。倒産に至らなくても、債務超過などにより上場が維持できなくなることがあるため、そういった企業は発行済み株式数が数倍に膨れ上がるような投資家を無視したファイナンスでも、好意的に受け止められる場合がある。
NECのケースは双方の側面があった。2008年秋以降の金融危機、急速な景気悪化を受けて企業業績は急減速しており、リストラ費用の追加計上などによって財務面も毀損させる企業が続出している。日本を代表するような大手金融機関や製造業でも大規模なファイナンス実施の発表が相次いでいる。株式市場ではNECについても近日中にファンナンスが実施されるであろう、との観測が浮上しており、実際にファンナンスを発表したことへの驚きはそれほどなかった。いわば株式市場はNECのファイナンス発表への準備ができていたのだ。
また、NECはファイナンス発表時、増資で得た資金をクラウドサービスや次世代ネットワーク開発、次世代電池などのグリーンテクノロジー開発といった新分野向けの投資に振り分ける詳細な計画も示した。グリーンテクノロジー関連は株式市場で注目度の高い分野。有利子負債削減だけでなく、前向きな投資に増資資金を振り分けることで、ファイナンスへの印象も良くなったようだ。
ただ、ファイナンス実施により、発行済み株式数は現在から30%弱、増加する。いくら株式市場が発表当日に好意的に受け止めても、ファイナンス実施後は1株当たりの価値は希薄化し、需給関係も悪化する。NEC株はこれまで、ファイナンス実施への警戒感もあって下値を切り下げる動きとなっていたこともあり、11月6日は悪材料出尽くしの動きも含まれていたとみられる。希薄化や需給面への懸念は今後、より意識されてくるとみられ、NECは新分野への投資の成果を早期に株式市場に示す必要がありそうだ。
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