第6回:マーケティングCMSの3つのフェーズとCMO - (page 2)

田中猪夫(FatWire)2009年07月17日 10時00分
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 フェーズ1、2、3は縦軸のインフラ・プロジェクトの複雑性の大小により区別したが、横軸のIT投資額についての考察も必要であろう。

 企業によりITガバナンスのひとつとして起案するプロジェクトには、ROI(※)の算定を義務付けることもあると思うが、ROIの算出を行うことには2つの意義があるのではないだろうか。

※ROI(Return on Investment)とは、投資額に対して得られた利益の割合のこと。

  • ROI算出の意義1:ROIは投資額と得られる利益を明確にするために非常に説得力がある。これは経営者でもIT部門でも、ユーザー部門でも理解できる指標である。正確なROIを算出することは難しいかも知れないが、算出されたROIは組織の中で合意形成を行う手段としては最も分かりやすい。プロジェクトにとり、「経営者」「IT部門」「ユーザー部門」の3者がROIに対し合意していることは重要である。
  • ROI算出の意義2:セル生産方式(※)でも立証されたように人の能力は馴れてくると習熟度が高まる。製品をデザインすることが決まってからCADソフトを選定するのでなく、CADソフトに習熟した人が製品をデザインすると効率が高まることと同じように、プロジェクトがあってからCMSソフトを選定するのでなく、CMSソフトに習熟した上でプロジェクトを行う方がROIが高くなる。
    例えば、広報CMSで利用したCMSソフトがマーケティングCMSでも利用でれば、そのCMSに習熟したチームが社内(社外要員)にリソースとしてあるならROIは机上での算定以上に高くなる。ホールディングカンパニーのように、数多くのサイトをCMS化するプロジェクトが必要な場合は、プロジェクトをこなすたびにROIが高くなる。
※セル生産方式とは、ひとり、もしくはチームで製品の組み立て工程をすべて行うことで、習熟度が高まると品質や効率が高まるという。山田日登志さんが発案。

 横軸のIT投資においてのROIは、合意形成ができて習熟度が上がることでマーケティングCMSはマーケティングに活用できる自社メディアのインフラに変容し投資額が低くなるのである。このような企業はマーケティングインフラにレディネス(※)な状態であるといえる。そして、レディネスな状態だからROIは高くなるのである。

※レディネス(教育準備性)とは、学習者があることを学習するときに、習得するために必要なもの(精神的なものも含め)が準備されて いる状態のこと。

 連載の『第3回:「5つのペルソナ+1」を選択』で解説した日本のCMSの現状からすると、広報CMSをマーケティングCMS(フェーズ1、2、3)のレディネスのために利用することは連載の『第4回:CMSのマス広告とコンテンツリニューアルへのペルソナ活用』で解説したマス広告の現状・将来からすると、広報CMSで導入したCMSの拡張性がない場合、そのボタンの掛け違いは先々まで影響する。

広報CMSをマーケティングCMSのレディネスのために利用することは、自社メディアを持つことにつながる。

 FatWireの2008年のグローバルユーザーカンファレンスで、レアル・マドリード(※)のCIOはCMSを導入するYesterday(昨日)とToday(今日)を図2のように示した。Yesterdayはコンテンツ制作(CONTENT.PROD.)とマーケティング(MKTING)、IT部門はすべてバラバラに機能していたが、TodayはFatWireのマーケティングCMSを導入することで、この3つの部門が有機的に顧客エクスペリエンスを高めることができるようになったのである。レアル・マドリードのTodayは、業種・業態・規模の違うグローバル企業にとっても近未来の方向性を示す有益な事例ではないだろうか。

※レアル・マドリードとは、スペインの名門サッカーチーム。世界大会であるFIFAワールドカップは参加国が多く、サッカーはグローバル化されたスポーツである。

図2:レアル・マドリードのTodayはレディネス
※クリックすると拡大画像が見られます

 さらにマーケティングCMSは企業の推進エンジン役でもあるCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が縦横無尽に活躍するためのマーケティングインフラとなる。逆にこのようなマーケティングインフラのない企業はCMOが生まれにくく、この景気後退からさらに身動きがとりにくい組織にシュリンクするかも知れない。

 マーケティングCMSの注意点として、インフラやプロジェクトの複雑性が高いシステムを構築するためのリスクを抑える手段として、シェルパ(※1)の役割を担う会社・人や、ミシシッピー川の水先案内人(※2)のように未来を見通せる会社・人が身近に必要ではないだろうか。レアル・マドリードのプロジェクトでは、FatWireスペインのFatWireプロフェッショナルサービス(※3)が参加しプロジェクトを成功に導いた。

※1:シェルパとは、本来はヒマラヤの現地人登山案内人を指すが、登山の荷物運びや案内役をシェルパと称することもある。

※2:ミシシッピー川の水先案内人とは、広大無辺のミシシッピ川の地形をすみずみまで把握しきった川のプロフェッショナル。

※3:FatWireプロフェッショナルサービスとは、FatWire CMSを熟知したFatWireの技術者によるCMS実装のコンサルタント、基本設計、開発実装を行う。

 この連載は今回で終わるが、FatWireではマーケティングCMSの動向や事例を@CMS(※)というメールマガジンで広く伝えている。ご興味のある方は こちらまで。

※ @CMSは週に1度程度の頻度でメール配信される。

 この連載で紹介したFatWireのペルソナマーケティングの事例は『第1回:環境研究の手法--景気後退期に重要な3キーワード』でも解説したが、FatWireという「小規模なグローバル企業」の事例なので自社の規模や業種と比較にならないかも知れないが、「システム」として考え、「FatWire日本法人は大企業のひとつの課・係・班」と捉えることで、異なる規模、業種でも参考になれば幸いである。

 短い間でしたが、ご愛読をありがとうございました。

FatWire株式会社代表取締役田中猪夫

1959年岐阜県生まれ。1983年、米国ソフトウェアをベースにしたVAR(Value-added reseller)を設立。1990年代、イスラエル製ソフトウェアの日本市場へのマーケットエントリー、および日本からのイスラエルハイテクベンチャー企業への投資事業に尽力。2002年からコンテンツマネジメントの分野へシフト。divine日本法人を経て、2003年、CMSベンダーFatWire Software(Mineola, NY)の日本法人FatWire株式会社の代表取締役に就任。「B to B ECが会社を変える」(技術評論社)など18冊の著書あり。システム工学を専門とする。

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