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セクシーカジュアルからわかるボトムアップ型消費の現状 - (page 2)

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お客様が「神様」になるということ

 さて、ここからマルキューの変化に議論が及んでまいります。前節で説明されたような作戦が奏功した要因の分析に議論が進みます。ちょっと長くなりますが、一気に引用させていただきます。

 その時(注:1996年当時)お客様は、ファッションに関して、成熟し、知識が増えるという、一種の成長を経験されました。だからこそ、お客様が神様になれる資格を得たのではないかと思います。

 昔から流行歌などで、「お客様は神様です」などといわれてきましたが、本当の意味でお客さまが「神様」という地位をしめるようになったのはこの10年か15年ほどではないかと思います。

 そのお客様に対して徹底した顧客志向を貫いたことがマルキューの成功の本質だと思うのです。

 お客様のニーズを無視してはどんな産業も・業態もありえないということは、今日あらゆる人が知っているでしょう。この経済の大不況の下で、どうして洋服が売れなくなってきたのか、自動車が売れなくなってきたのか、百貨店も売れなくなってきたのか、ということを皆が考えています。そして、気づいたことは、いままで我々が提供してきたものと、お客様がほしいと思っていたものとの間にギャップがこれだけあったのか、ということです。

 このギャップがどうしてできたのかが、問題の本質だと思います。では、マルキューは何が良かったのでしょうか?

 まず、マルキューは情報の受信力に優れていました。これが最大の強みであり特徴であると思います。情報の受信力とは、お客様が何を欲しがっているのか、どうして欲しいと思っているのかをキャッチする能力です。

 これまでもファッションの流行には、いくつかのウェーブがありました。DCブランドなどのような以前のファッションは、あくまで「ユーザに対して与えられた」ファッションでした。それに対して、マルキューのファッションはあくまで「お客様が作る」ファッションです。

 お客様の顔色をうかがうのが上手。そういう人たちがマルキューで成功している。

 しかし、お客様が何を求めているかが何かわかっただけではビジネスにはなりません。ファッションビジネスとはお客様の気分を形にする仕事です。ところが、マルキューは、このお客様のニーズをいとも簡単に実現してしまいました。

 それまでのアパレルでは、お客様の「いますぐ、こういう商品がほしい、おこずかいで買える範囲でほしい」という声を聞いても、「無理だ」としか答えられませんでした。しかし、マルキューの人々は「無理」といわず、いとも簡単に実現してしまいました。

 ユーザーのニーズ把握が重要だという点では、マルキュー的な企業も、そうでない企業も全く変わりません。しかし、品質・価格・速度という一見相反する注文を投げてくる、「わがまま」なユーザーのニーズにきちんと応えているかという点では、大きな差がありそうです。これには、ユーザーのニーズを正確に把握し、それをもの作りに迅速に反映できるシステムが構築できたという技術・組織能力という要素も寄与しているようです。

 いままでは、たとえば1カ月(常識では1カ月から1カ月半かかります)で新しい商品を作りましたが、お客様がこういう商品がほしいというニーズが分かってから、その商品が店頭に並ぶまでを2週間(全部ではないが、速いものでは)という短いサイクルで実現しています。さらに、追加生産なら1週間でできてしまう場合もあります。このようなビジネスサイクルを実現させてしまいました。これがマルキューのお客様からは見えないイノベーションだと思います。

 このように、お客様の声を形にできる仕組みと能力を持ったということが、奇跡のもう1つの本質だと思うのです。

 続いて、マルキューのメディアとしての機能についても言及されました。

 そして奇跡の要因のもう1つは、情報の発信力に優れているという点です。これは他のショッピングセンターにはない特性だと思います。マルキューの店頭でのテレビの取材はかなり頻繁に行われます。今年の年末年始のマルキューの店頭でのテレビの取材は、これまでなかった注目度があったと思います。あたかも、世の中で、マルキューぐらいしか元気なところがないという感じだったと思います。

 10年前にこれだけの勢いがあったかというと、必ずしもそうではありません。いろんなファッション雑誌やメディアがマルキューから育っていったという側面もあります。これは、他のショッピングセンターや駅ビルでは全くなかったことでしょう。

 実際に現場の最前線にたって成功を牽引してこられた木村さんの言葉は深い分析に立脚し、成功経験に裏付けされた重みを感じます。皆さんはいかがお感じになられたでしょうか。

まとめ

 木村さんの講義内容をベースにして、マルキューの成功要因をまとめると次のようになるでしょう。

  1. コンセプトを押しつけないという逆張り戦略
  2. ビジネスプロセスの改革によるユーザーニーズを踏まえた品質・価格・速度の提供
  3. 積極的な情報発信による自らのメディア化

 これらのどの1つを欠いても成功しなかったのではないかと思います。しかも、これらが直近の10年間という時代の変化とうまく結びついている点もポイントでしょう。消費スタイルの変化、技術革新、メディアの多様化など、今となっては常識として考えられている事項ですが、10年前に同じことを指摘されてもそれほどピンとこなかったのではないでしょうか。このように時代と共に進化することができたのが強みとなっていると確信しています。

 さらに、このように整理して見ると、一見、「ファストファッション」とかなり近いのではないかと思ってしまうような「マルキュー的ファッションブランド」ですが、両者はかなりビジネスモデルとして異なっているということが見えてくると思います。

 ファストファッションでも「速い」という点がポイントでしたが、そこでの速さはあくまでも「ハイファッションから流れてくるトレンドの先取り」の速さでした。しかし、マルキュー的ファッションでは、ユーザーのニーズ、すなわち実需なのです。

 マルキューに見られた成功を他の分野でも成立させるにはどうしたらよいのでしょうか。今後も、講義で扱ってきました多様な事例に触れながら、一緒に考えていきたいと思います。

七丈直弘 Naohiro Shichijo

東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。

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