毎日のように多くの日本企業がプレスリリースを発表している。ところが、取引所の適時開示規則をみるとプレスリリースの取り扱いに関連する記述は見当たらない。プレスリリースは法律や規則に基づく発表ではないのだ。ところが、米国では事情が異なる。
例えば、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場規定マニュアル202条第6項は、公平開示規則(Reg.FD)を念頭に、即時に公表されるべきプレスリリースはダウジョーンズやロイター、ブルームバーグなどの通信社に届けることと具体的に記載している。
さらにAPやUPI、そしてニューヨークの新聞各社、自社の本社や工場などのある地域の新聞にニュースリリースを配信するように促している。
4月27日、米証券取引委員会(SEC)は、NYSEが適時開示方針を変更するとの届出に関してパブリック・コメントを募ると発表した。
NYSEの変更が承認されると、NYSEに上場する各社はプレスリリースの発表を求められても、強制はされず、自社のウェブサイトやブログで重要情報を公的開示することが可能になるという。
この動きの背景には、企業情報を自社のウェブサイトで公的開示を行いたいとする企業が増大していることがある。2008年7月30日、SECは公開企業のウェブサイトが果たしている役割を認め、企業が重要情報を自社ウェブサイトやブログで開示することがReg.FDに相反しないとする新たなガイドライン(案)を採択した。
SEC委員が全員一致で出した結論だ。今回のNYSEの提案は、このSECのガイドラインを取り込んだ内容だ。しかもReg.FDが適用外とした海外企業も対象にしている。
では、米国を代表するもう1つの取引所、ナスダック証券取引所(ナスダック)はどうか。
ナスダックも、NYSEと同様、プレスリリースを求める項目を上場規則に盛り込んでいるが、2008年7月のSECの見解を十分に反映しているとはいえない。
そのため、ナスダックは近く規則を改正し、いくつかの分野でプレスリリース発信の義務を撤廃する意向だという。
また、上場廃止の決定、公的な譴責書簡、ゴーイングコンサーン(企業経営の継続性に懸念があるリスク要因)の決定要因、国際企業の年次・中間報告書などに関連するプレスリリースも廃止の対象として検討中だという。規則の変更に向けた動きはNYSEよりも速い。
いまのところ、NYSEやナスダックなど米取引所の規則が、いつの時点で変更されることになるのかは、はっきりしていない。しかし、こうした変更に向けた動きにSECや投資家、上場企業から反対する大きな声は聞こえてこない。
反対は、プレスリリースを通信社や各地の新聞社に配信する業者から聞こえてくる。SECが発表したウェブベースの情報開示に関するガイダンスは「明らかにIR業界のベストプラクティス基準を満たしていない」(ビジネスワイヤ幹部)というのだ。
2008年8月全米各地の個人投資家1000人にSECが行った調査によると、投資判断で最も重要な情報源は、インターネットが新聞・雑誌・テレビを断然リードした。
その中でも「個別企業のウェブサイト」が「金融投資の情報サイト」を大きく上回った。それだけ、企業情報を発信する企業サイトの地歩は高まっている。
今回の取引所の動きは、改めて各社のサイトの影響力を認知したものだといっていい。SECのパブリック・コメントの期間は60日。集まったコメントはすべて公開される。いまから、その内容に関係者の関心が集まる。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやまてつゆき)
大和総研・経営戦略研究所客員研究員。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)ほか。最近の論文に「企業サイトは進化する ノキア・モデルからENIモデルへ」(「広報会議」09年6月号)、「東証『上場会社表彰』 セグメント・CSR・自社ホームページ」(「月刊エネルギー」09年5月号)など。
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