先ごろ、財務省の英語版国債サイトが更新された。これまで、そのトップページに掲載された10あまりのプレスリリースの日付を追うだけで、「これは、どうしたことなのだろう」と思ってしまったものだった。
ニュースリリースの一例を挙げると、2002年4月30日、5月23日、31日、7月25日がムーディーズやS&Pなど格付け機関に関するものが並び、2007年2月13日からはもっぱら国債の海外IR関連が占めた。プレスリリースといえば「情報鮮度」が第1に問われるのに、だ。
2005年1月、財務省はロンドンやニューヨークで日本国債の説明会を開催した。これは1904年に日露戦争の戦費調達で欧米を奔走した高橋是清日銀副総裁以来、じつに100年ぶりのことだった。
財政状況や財政改革の取り組みを示し、国債の信用リスクの低さを説明し、日本国債への投資や長期保有を促す。その後も毎年、欧州各国や北米やアジア、豪州、中近東を訪れる。
そして、今ではセミナーだけでなく機関投資家との個別訪問も行っている。文字通りの海外IRだ。2004年末に4.2%(約25.9兆円)だった外国人による日本国債の保有は2008年3月、7.2%(約50.2兆円)。50兆円を超した。統計を取り始めた1979年以来の最高となった。「100年に一度」の金融危機が襲った2008年12月末で6.8%(47.2兆円)と高い水準を保った。
しかし、米国やドイツ、フランスなど外国人保有は日本とはケタが違う。それだけに、こうした国々は自国債券の海外IRに注力してきた。例えばフランス国債庁(AFT)は、毎年、米国や中国など20あまりの国・地域を訪問。日本の機関投資家にも年2回は面談してきた。外国人保有は増大してきているが、それは「フランス語以外でのIR」による成果が大きい。
とりわけ、「決め手はウェブサイトにある」(AFT関係者)という。AFTのウェブサイトには、フランス、英国、ドイツ、イタリアやスペイン、そして日本や中国の国旗が並ぶ。各国語のサイトがそれぞれ用意されているのだ。
掲載されたコンテンツは、どれもトップページに掲載された大項目から3クリックでアクセスできる。アクセスも簡単だ。英語版はフランス語版と比べると、コンテンツに微妙な差異はあるものの、全体としてほぼ同じ。その充実ぶりはグローバル企業大手のIRサイトもしのぐ。
AFTと同様、欧州各国やオーストラリア、ニュージーランド、アフリカのナイジェリアなどの政府機関でもウェブサイトに注力している。なかでも、スウェーデン債務管理庁の英語版サイトはコンテンツとデザインで群を抜く。
その英語版サイトは「個人からの負債」「資金調達」「プレス・刊行物」「債務管理庁について」という4つのグローバルサイトに「政府負債&資金調達」「保証&貸与」「キャッシュマネジメント」「統計」「コンタクト」のローカルサイトが用意される構成で、記述も分かりやすい。
今回、一新された財務省の英語版「国債」サイトは、3クリックでどのコンテンツもカバーし、トップページに「国債の発行残高」を掲載。
「One-Stop Introduction」や「リンク先」もいちだんと充実。いっそう分かりやすくなった。直近のニュースリリースも時系列に掲載され、バックナンバーも加わった。前出のAFTやスウェーデン債務管理庁のサイトを意識している財務省の英語版「国債」サイトに市場関係者の注目が集まっている。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやまてつゆき)
大和インベスタ−・リレーションズ(大和証券グループ)海外IR部長。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)最近の論文に「日欧の企業サイト、好感度を決めるユーザビリティ」(「月刊エネルギー」09年3月号)など。
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