一方、雑誌はその収益構成上、どれだけ読者に読まれるかという販売部数が非常に重要です。特に、女性誌市場では、Popteenが代表する「ギャル系」に始まり、最近までエビちゃんが顔だったCanCamが有名な「お姉系」、さらには「ガーリー系」、「ストリート系」、「ワーキング・コンサバ」、「モデスト」、「ハイファッション」、「ゴージャス」と多種多様な消費者の好みによって市場が細分化され、その中で、それぞれ4〜5誌が競い合っているため、ターゲットとするユーザー層がどれだけ誌面に満足してくれるが鍵になります。
その結果、ユーザーの嗜好をどれだけうまく取り入れるかというのは、他誌に勝つための重要な差別化要因です。Popteenが成功している理由のひとつは、この「ユーザー目線の雑誌作り」を徹底できているからのように思えました。
これを実現するためにPopteenがとっている手法の中で一番分かりやすかったのは、街角での読者アンケートでした。ここは再度、石原さんの講義内容を紹介します。
Popteen編集部では、渋谷の街角で500人にアンケートするという企画を年に2回行っています。皆さんも想像すればおわかりになるのではないかと思いますが、500人にアンケートを取るには非常に労力がかかります。編集スタッフに加え、アルバイトを数人加えても朝から夜までぶっ通しでも三日間ぐらいかかります。
さらにこの結果を集計するのに数日と、月刊誌としてはかなり根性が必要な体育会系的な仕事です。しかし、このように苦労して集めたデータを参考とすることで、自信をもって「ユーザーの意見はこうだ」ということができるのです。
研究活動の一環としてヒアリングやサーベイデータ分析をした経験からいくと、渋谷と原宿という地理的に非常に絞ったエリアに典型的な読者が集中しているとするのであれば、500人というサンプル数はかなり大きい値と言えるでしょう。相当な労力がかかっていることがうかがわれますが、正確なユーザー動向を把握する上で、大きな寄与があるに違いありません。
また、一般論として、全国くまなく質問票調査を行うことは非常にコストと時間がかかります。日本の女性誌では細分化された読者層ごとに雑誌が作られ、そのうち「ギャル系」などのカテゴリーは渋谷、原宿という読者が集中する聖地をもっているという恵まれた条件を考慮すると、また、少数のユーザーを集めた座談会などでは得られないマスの声を聞いているということは、ボトムアップ的な情報の汲み上げとして非常に有効かもしれません。
まだまだ途中なのですが紙面がつきてきてしまいました。次回は引き続き、読者モデルから始まり、さらには雑誌からアパレル企業への流行伝播というボトムアップ現象を見ていきたいと思います。
東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。
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