ネットワーク分析を行い様々な指標を出したのですが、多くの指標は米国における類似の調査Eubank, S. et. al. (2004) Modelling disease outbreaks in realistic urban social networks. Nature, 429, 180-184. とほぼ同じ結果が出てきました。アブストラクトはここから見れます。ちなみに、“Supplementary info”には分析結果の詳細がグラフとともに説明されており大変面白いのでぜひご覧下さい(こちらは無料)。
それは簡単に言うと、
ということです。
上記の要点は今回の例でいうと、次のようになります。
スモールワールドネットワークというのは、ネットワークに属する誰もが比較的近い関係(直接つながっていなくても、何人かを媒介にしてつながっている)であることを意味します。短期的な感染拡大は、このように「近い関係を持っている人」同士の間で起きていきますので、どの程度スモールワールド性があるのかは、感染拡大対策において、きわめて重要なポイントです。
さらに、注目すべきは「回復性が高い」という点であり、多くの人とつながっている人をネットワークから隔離していっても、なかなかネットワークが分断されないということを意味します。
感染の例でいうと、多種多様な電車を長時間乗り継いでいる人(=移動度が高い人)を隔離していっても、感染拡大を防止する効果は一時的であるということです。長期的には、「近い関係ではないけれど多くの人を経由してつながっている人」同士の間で、感染拡大がじわじわと広がっていく可能性があります。
以上を総合すると、移動度が高い人を隔離するだけではなく、全ての人間にかなり広範囲で移動を自粛してもらうのであれば、感染拡大を相当阻止できるというのが、このシミュレーション上の結論でした。
一方、口コミという現象は、人から人へと伝わるという点で、感染によく似ています。伝播する「もの」が、インフルエンザの場合はウイルスとなりますが、口コミの場合は情報に相当すると考えていただければ類似性を理解しやすいと思います。ということは、口コミにおける情報伝播も、交通センサス並みの高い精度のデータがあれば、その伝達において何が鍵になっているかを分析するのは可能ということになります。
もっとも、口コミを「流行を作る」というマーケティングの観点で捉えた場合、「いかに伝播を防止するか」というより、まったく逆方向の「いかに伝播を促進させるか」という観点から考える必要があるでしょうが。
新型インフルエンザが大きく取り上げられており、ウイルスと口コミによる情報伝播の形が似ていることになぞらえて、コンテンツビジネスの逆潮流のイメージの説明としていただくべく、わたくしが過去に関わった感染拡大対策研究の一端をご紹介をさせていただきました。
この分野(口コミのミクロデータによる分析)は2009年の研究テーマのひとつであり、そこでのケースも今後ご紹介していきたいと思います。
次回は、東大での講義も踏まえ、コンテンツの「逆」潮流の話に戻るつもりです。
東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。
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