「YouTubeシンフォニーオーケストラ」のストーリー

 ウェブにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。インターネット動画投稿サイト、YouTubeの「シンフォニーオーケストラ」には、人間の感情を刺激するストーリーがありました。

 このイベントは、インターネットを通じて世界中の音楽家をオーディションで集め、世界規模のオーケストラを結成し、オンラインでコラボレーション、そして演奏会を実施し、YouTubeで配信するという壮大な企画です。

 この企画には、世界的に有名な指揮者であるマイケル・ティルソン・トーマス氏が参加を表明、中国人の作曲家であるタン・ドゥンさんが曲を提供しました。

 参加を希望する人は、そのテーマ曲を演奏している動画をYouTubeにアップします。プロアマ、年齢、国籍、楽器を問いません。そこから一般ユーザー投票やプロオーケストラ団員など何段階かの審査を経て、最終的なメンバーが決められました。

 全世界から3000件以上の動画の応募があり、その中から最終的に95名が選ばれるという、約30倍の狭き門でした。メンバーはやはりアメリカが多く、続いてヨーロッパ勢。日本からも3人が選ばれました。外科医のバイオニストやプロポーカー選手のチェリストなどの個性的なメンバーもいました。

 こうして選ばれたメンバーたちは、2009年4月15日に、ニューヨークの音楽の殿堂カーネギーホールに集められ、The Internet Symphony Global Mash up(インターネット交響曲--地球規模のマッシュアップ)と名付けられた曲を演奏しました。

 このイベントは、ネット上で大きな話題になり、YouTubeの可能性を地球規模で示すことができました。

 では、何が多くの人の心を引きつけたのでしょうか?それは、オーディションに参加する人間はもちろんのこと、一般視聴者も、この企画に参加できるストーリーを作っていることです。応募した本人はもちろんですが、それ以外の圧倒的多数の人も、どんな人が応募してくるんだろう?と興味を抱きます。

 そして、自分も審査に参加できるということで、動画を見て誰が選ばれるだろうか、誰を応援しようかと、さらに興味を深めていくのです。結果として、応援していた人間がメンバーに選ばれたとしても、選ばれなくても、このイベントに興味を持ち続けて、ブログなどで口コミしていったのです。

 このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?

◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみてつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「仕事はストーリーで動かそう」(クロスメディア・ パブリッシング)。

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