ウェブにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
HBOというアメリカのケーブルテレビ局による、屋外イベントとウェブをリンクさせたキャンペーンには、生活者が自分から参加したいと思わせるストーリーがありました。
Voyeur(のぞき屋)という刺激的なタイトルのこのキャンペーンは、ヒッチコックの名作「裏窓」へのオマージュとなっています。「裏窓」では足を骨折して車椅子生活をしている主人公(ジェームズ・スチュアート)が、退屈しのぎに望遠カメラで隣のアパートの色々な部屋をのぞき見していたことから事件が起こります。
このキャンペーンの告知CMでも、双眼鏡がフックになっていて、あなたもこのストーリーに参加すれば主人公になれますよ、と誘っているようにも見えます。
また人間には、隠されたモノをのぞきたいという本能的な欲求があります。他人の生活をのぞき見する、という行為は、そんな本能をくすぐります。
キャンペーンは、まずニューヨークの某ビルの壁面に、ドラマを映写するという屋外イベントを1週間おこなうことから始まりました。そして、このドラマは某4階建てのアパートメントの断面を切り取り、合計8部屋で起こるストーリーを同時並行で見せていくというものです。
ある部屋では、熱いラブシーンの予感が、またある部屋では喜び合っているカップルが、そしてある部屋では殺人がと、どの部屋のストーリーも興味深いものになっていて…。
ただし、当然ながら普通の人間には、同時に8つのストーリーを追うことはできません。でもみんな気になりますよね。そこでウェブです。
ウェブでは、それぞれの部屋で起こっているストーリーをじっくりのぞき見ることができます。各4分で8つのストーリー。多すぎず、少なすぎず、ちょうどいい量のコンテンツだとも言えます。
このキャンペーンの目的は、HBOが「ドラマ等のストーリー性のあるコンテンツに力を入れているテレビ局だ」ということ訴求するものです。その目的は充分にはたされていますよね。
これが単にひとつのアパートで起こる8つのドラマをウェブで見せるだけのキャンペーンだとしたら、ここまで話題にはならなかったでしょう。
このキャンペーンが秀逸なのは、視聴者が主人公になれるストーリーを組み立てたという点です。視聴者は、自分の意志でストーリーに参加することで主人公になれたのです。これこそが本当の意味でのインタラクティブなコミュニケーションだと言えるでしょう。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「仕事はストーリーで動かそう」(クロスメディア・ パブリッシング)。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス