不況期に立ち上がる企業こそ成長する、投資家にとって今は「好機」--DCM伊佐山氏(前編) - (page 2)

 タイミングが悪いと思ったことは本当にないんですよね。確かに現在、日本のVCや金融機関は悲観的な雰囲気が漂っていますね。ただ先をみて投資すれば、なにも悲観的になることはないと思っています。

 僕らVCはヘッジファンドのようにパブリックマーケットで損が出ているわけではない。5年後、10年後に伸びる会社に投資するのだから、今の売り上げとか株価に振り回されず、将来成長すると思われる分野に資源を集中するように動けば良い。そういう意味で、ベンチャー投資家はいま一番恵まれているんじゃないかと個人的には思っています。

 確かに日本のIPOは、今年は30件ぐらいに落ち込むでしょう。ただ、上場してから株価が下がるような会社を無理して上場させるべきではない。こういう環境でも、グリーみたいに上場してからも利益を増やせるような会社にして市場に出さなきゃいけない。無理に上場したら、一番損するのは経営していた人間ですから、会社の成長戦略がある程度クリアになって上場すべきです。

 そう考えれば、マーケットがいま閉じていて、仮に向こう3年間IPOがゼロ件になったとしてもかまわない。その間、足腰の強い会社を作って、いま上場したら時価総額100億円の会社が3年後に300億円で上場できるなら、僕は待ちたい。そういうスタンスなので、何が何でも上場させなきゃいけないというプレッシャーはまったくない。考え方次第だと思いますね。

 ただVCの場合、ファンドの期間が終わりだから売らざるを得ないということもある。状態の良くないリビングデッドの投資先でそういう判断をする場合もあります。しかし、いい会社だった場合、杓子定規に売るということはやらない。われわれのファンドの投資家に、これはいい会社で、今売るのはもったいない、だからファンドの期日を2、3年延ばしましょうと説明する。

--ファンドレイズ(投資ファンドの資金調達)という観点では現在の状況は厳しいのではありませんか。

 去年の後半、まさにマーケットが本格的に崩れ始めたころ、日本円にして約500億円のファンドの組成を始めました。お陰様で既存の主要な投資家はほぼ参加してくれており、順調にクローズの予定です。

DCMパートナーの伊佐山元氏

 ところが、今回の募集の過程では、(マーケットが11月12月と株価が下がっていく中で、大手の年金や大学の基金などは(運用資金全体に占める)プライベートエクイティーの比率が結果的に高まってしまい、なかなかプライベートエクイティへの投資が積極的に行えない環境になった。そうすると、我々のLP(Limited Partner:ファンドの有限責任組合員、つまり投資家のこと)でも出資の決裁に時間がかかり、当初想定していた募集期間が延びたことも事実で、ファンドを取り囲む環境が厳しくなったことは事実だと思います。

 ただ、この環境でファンドを組成できるVCは世界でもそれほど多くないはずなので、われわれとしては心強く思っておりますし、その分期待にこたえなくてはいけません。わがままを言えば、ファンドの残りの金額は、できれば今まであまりご縁のなかった日本の投資家を見つけることができればと思っています。

 歴史的にみると不況期にいい会社が出ているんですよね。マイクロソフトもアップルもフェデックスもシスコもそうですし、全部不況下または景気後退期に立ちあがっている会社です。歴史が繰り返すということを信じれば、不況の時に立ちあがっている会社は、足腰が強くて今日の大企業になっているケースが多いんですよ。よって不況下で組成したファンドのパフォーマンスも良い。

--VCによっては、事業を撤退するところもあるようです。

 そうですね、今後2年間で「えっ解散するの?」というところはかなり出てくるでしょうね。逆に我々にとっては、ここを生き残れば、かなり楽になると見ています。個人的には半分近くのシリコンバレーのVCは縮小または消失するんだろうなと思っています。

 いま、LPと話していると、「これまで7社のVCに出資していたが、今回は3社しか出資しないことになった、4社落とすことになった」等と、だいたいどこの投資家も選択と集中をせざるを得ない状況になっています。半分落として、新規をちょっと入れる。われわれとしてはまず、この半分に残らなきゃいけない。既存の投資家が逃げると評判が下がりますから。新規のLPにいくのはもっと難しくなる。やはり投資家は人間なので「既存の人が辞めたらしい。悪いものをつかまされるんじゃないか」と思うのでしょうね。

--機関投資家がベンチャーキャピタルを選ぶ基準は何でしょうか。

  当然過去のパフォーマンスも見ているけれど、実は米国の投資家が気にするのは、このベンチャーキャピタルが長期的に成長するかどうかという潜在能力という点。VCはパートナーシップという人が集まった組織形態なので、チームとしての強さ、パートナーの定着度や起業家からの評判等を確認する。

 過去(のトラックレコード)がよくても、「バブルがあったから」とか「いまのチームは半分疲れていて働いていない」「有名ファンドだけどいまは状況違うよね」と思われたらだめですね。これから勝ち組になると思わせる投資戦略と熱意が大切ですね。その意味で、われわれの戦略はユニーク。日米中のそれぞれの市場で実際に投資の成果を上げている数少ないシリコンバレー発のVCなので、ここを生き残れば、かなり優位に立てるとみています。

--あらためて、DCMの概要を教えてください。

 ITバブルの始まる少し前、1996年に創業したベンチャーキャピタルファンドで、現在では米国と中国と日本に拠点があります。

 創業メンバーはディクソン・ドールとデビッド・チャオです。当初は通信系のベンチャーに多く投資しており、その後、インターネットや半導体、ソフトウェアにも投資して、現在ではクリーンテックも含めた半導体関連に3分の1、インターネットや通信、デジタルメディアといった世界に3分の1、残りの3分の1がソフトウェアや中国・日本のサービス系の会社という割り振りで投資しています。

 ファンドの全体の規模としては、5つのファンドで16億ドルを運用しています。ちょうどいま、さらに5億ドルのファンドをクローズするところです。20億ドルを超える資金を運用する体制になります。日本拠点には私のほかに、もうひとり、本多央輔という投資メンバーがいます。日本は2人、中国で2人、米国で5人。投資チームは全部で9名でやっています。ほかにアナリストや財務のスタッフを含め会社全体では40人ちょっと。日本はまだ、3人しかいません。これからスタッフを集めていくところです。

 DCMはまた、米国でもトップ10にランクされるベンチャーキャピタルです。現在、全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)の会長を務めています。ホワイトハウスにて意見を求められることも少なくありません。米国のベンチャー企業は日本よりはるかに社会的地位は高い。ベンチャー企業がないと米国の成長力はないという社会的コンセンサスもあります。実際に米国のGDPの成長や、新しい雇用のかなりの多くは、ベンチャー企業によって生まれているというデータもあります。また、多くのイノベーションはシリコンバレーのベンチャー企業が引っ張ってきました。

 オバマ大統領に代わってからも、シニアなパートナーであるディクソン・ドールが定期的にワシントンD.C.行って、政府高官にシリコンバレーやベンチャー業界の状況を説明しています。こういうテコ入れをしないとベンチャーがダメになるなどと説明しています。クリーンテック(環境関連技術)については、オバマ大統領も支援に言及していますが、この分野のベンチャーはすごくお金もかかるのでリスクも非常に高い。リスクに対して税的なメリットとか、補助金が出やすくするとか、投資家サイドに対してもメリットがあるような構造があってもいいのではないかと提案しています。

--投資手法の特徴を教えてください。

 米国、日本、中国の3極--社内ではゴールデントライアングルと呼んでいます--を組み合わせて、おもしろいベンチャーを育てたいと考えています。日本の大手ベンチャーキャピタルであるジャフコなりSBIなりと差別化する目的もあり、必然的にクロスボーダー的な経営者や会社に特化して投資していきます。小さくてニッチな国内マーケットで事業展開して、国内市場で上場することも重要ですが、米国なり中国なりに進出できるような技術やサービスを持ったベンチャーを探して、非常にセレクティブ(選択的)に投資していくことが我々のミッションになっています。

 米国は引き続き、テクノロジーオリエンテッドな次世代半導体や次世代サービス、中国はデジタルメディア系も多いけれど、富裕層が生まれている戦後の日本みたいな経済状況なので、サービス業で成長が生まれてくるのではないかと見て投資をしています。

 ゴールデントライアングルがDCMとしていかに重要かというと、ベンチャーキャピタル業界で、この投資戦略をちゃんと実行できているところが見当たらないからです。この3か国に拠点を持っているファンドはいっぱいあるんですけど、3拠点の人間が一緒になって投資先のことを考えるというのは珍しく、面白い仕組みなんです。社内では、“ワンファンド・ワンファーム”と呼んでおりますが、各拠点の投資メンバーがどの拠点の成果であっても平等に共有することにしています。

 確かに短期的には、拠点ごとに不公平ではないかと思われる方もいるかと思いますが、DCMでは長期的にお互いが協力し合うメリットは短期的な利益より大きいという信念と信頼で結びついた人間で組織を運営しています。確かに、自分が拠点とするマーケット以外で何が起きているか、感度をあげてベンチャーを支援するということはキャピタリスト個人レベルでは負荷は大きくなりますが、ベンチャーキャピタルとして付加価値の高い支援ができます。

 以下、後編に続く。

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