電通から08年日本の広告費が発表されました。総広告費は6兆6926億円で前年比95.3%、5年ぶりの減少でした。景気が悪くなると企業が真っ先に削減するのが「3K」です。ここでいう3Kとは交際費、交通費、広告費です。今回の不況は100年に一度といわれています。
人員カットが実施されている中、3Kのカットは言わずもがなですが、08年10-12月期におけるマス4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告費は落ち込みが大きく、前年同期89.3%でした。広告は経済の遅行指標といわれ、景気が悪くなった半年後に影響が出るのだそうです。そうすると09年4-6月期以降にさらに影響が出ることが懸念されています。
では、この不況時に媒体の中で前年を上回ったところはあったのでしょうか。
一つは衛星メディア関連広告費(衛星放送、CATVなど)です。676億円(前年比112.1%)と7年連続の上昇となりました。地上デジタル放送への移行に伴い、BSデジタル放送の視聴環境が徐々に整ってきていることやCATVへのニーズの高まりが広告費増につながったといわれています。
そして二つ目はインターネット広告費です。全体で6983億円、前年比116.3%と96年に統計発表されて以来、12年連続の増加となっています。しかしPV数の伸びが鈍化しているようで、インターネット広告の形態が徐々に変化しているともいわれています。
またこの統計では媒体費と広告制作費が分けて発表されており、インターネット広告費の内訳は、媒体費5373億円(前年比117%)、広告制作費1610億円(前年比114%)となっています。
ここで注意してみなければならないのは媒体費で、5373億円のうちモバイル広告費が913億円(シェア17%)あるということです。モバイルを除いたインターネット媒体費は4460億円(前年比112.3%)であり、伸び率としては衛星メディア関連広告費レベルであることが伺えます。
一方、モバイル広告費は前年比147%と依然高い伸びを示しており、媒体では唯一といっていいほど、好調なメディアといえるでしょう。その背景には何があるのでしょうか。
日本の広告費の解説では3G端末や通信料定額制のさらなる普及、効果的な広告メディアとしての評価が定着したことで、ナショナルクライアントがマスキャンペーンとの連動やSNSの広告活用など、その領域が拡大したことを理由に挙げています。
またモバイル検索広告も170億円(シェア18.6%/前年比200%)規模となり、キャリアの検索機能の充実も好調の要因としています。以前のモバイル広告の課題は、ナショナルクライアントに如何に振り向いてもらえるかでした。その課題が徐々に良い方向に向いている結果なのかもしれません。
しかし本当にモバイル広告の良さを活かした結果が出ているのでしょうか。モバイル広告費増加の背景には、やはり景気が影響しているのではないでしょうか。広告費全体をみても、地上波テレビから衛星メディア関連へ(=安価な)、プロモーションメディア広告(前年比94.2%)である折込広告(前年比94.0%)や、ダイレクトメール(前年比97.6%)からモバイル広告へ(=効率的な)、といった傾向がみてとれます。
企業は未曾有の大不況の中、広告をコストパフォーマンスがいい方向にシフトさせています。
モバイル広告はクリエイティブの入る余地が少ない媒体ですが(画面が小さいなど)、この機会をチャンスと捉え、人目を引くといった従来型の広告手法ではない、モバイルの特性である「いつでも、どこでも、身近にある」媒体として進化していって欲しいものです。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐちこういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より主席研究員。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆、編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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