ユーザー中心のメディア/コンテンツのデザインを目指せ - (page 2)

UIだけではなく構造もユーザー中心へ

 そんな変化の結果は、すでにCNETをお読みの読者のみなさんも含めた僕たちにとって、現実そのものだ。むしろすでに時代遅れとなっていながらも、依然として存在し続けている構造との皮膚感覚的差分を埋めるために正当化されるべき努力を、既存のメディアがどこまで果たせるかが重要になってくる。

 国際大学グローバルコミュニケーションセンターの機関誌「智場」112号でも掲げたが、すでにメディアとコンテンツ、そして、その消費者である僕たちとの関係性は変化してしまっている。

すでにメディアとユーザーの関係性は変化している すでにメディアとユーザーの関係性は変化している(※画像をクリックすると拡大します)

 マスメディア効果研究では、厳密に言うとコンテンツ消費はかつてのマスメディアをモデル化した「コミュニケーションの二段階の流れ」で、送り手と受け手と=メディアとユーザーとの区分によって構成されていた(メディア一体観)。

 より詳細に言えば、1)メディアから消費者へ(マスコミュニケーション)、そして1)によって得られた情報を共有した2)消費者間(パーソナル・コミュニケーション)の2つの情報の流れだ。

 その後、コンテンツが独立浮遊し複数のメディアで流通する(クロスメディア観)ようになる。そしてメディア・コンテンツの創造にユーザーが参画可能な状態となり、パーソナルコミュニケーションまでがメディアの延長上で可能になり、その行為そのものがコンテンツとなっていった(共創作共消費観)。

 しかし、メディアがパーソナル化し、それがインターパーソナルでのコミュニケーションに主軸をおいたものになっていく傾向が見えた時点で、やがて「共創作共消費」が現れるのは、想定不可能なものではなかった。

 しかし、ブログの台頭や、YouTubeにみられるUGC(user-generated content)の急成長、ニコニコ動画におけるアノテーション型バーチャルコミュニティの顕在化など、具体的な想定を超えたものが生まれた。そして、その成長スピードは事業性確認などの冷静な受容過程を反故にするほどだった。そのインパクトが、既存の常識を吹き飛ばし、ユーザーの肌感覚と社会の構造とに乖離を招いたのだ。

 とはいえ、主にその変化をめぐる議論は、目に見えるところに終始した。ユーザーインターフェース(UI)を向上させ、より多様なコンテンツへのアクセスを自由にすることで、表面的な自由度は確実に広がった。また、「ウェブ2.0」の真骨頂である「情報の非対称性の破れ」を作り出した企業などが保有する大量の情報を収容したDBへのAPI公開によって、更にそのコンテンツは充実したかのように見えるようになった。だが、肝心の継続性(サステナビリティ)を実現するビジネス構造をも取り込んだ変革は、なかなか訪れなかった。

 「創作>流通>消費」という単純な流れのモデルには登場しないが、フリービジネスというビジネスモデルには欠くことのできないもう1人のメディア・ユーザーである広告主のニーズを、これらの変化は吸収しきれなかったのだ。

 バナーであろうと、サーチだろうと、広告/販売促進の効果を生み出しうるものがあれば、広告主は期待成果に対して金を払う。しかし、それに応じたものはなかなか生まれなかった。一種、技術が暴走し、その中身の是非を問うことなく新奇性だけで押しまくる営業ができたのではないだろうか。

 この点について、もちろん一概には言えないという印象も持っている。露出ではなく、何らかの直接的な行動変容(たとえば、クリック)を前提とした広告商品としてgoogleやOvertureなどが提供する検索広告があるからだ。

 ネット広告もバナー広告では当初はある程度まとまった単位(100万ページビューなど)で販売されていたものの、検索広告などでは広告主が買い付け単位を任意に決められるようになり、対象となるワードによっては非常に廉価な予算で買い付けることも可能になった。

 結果、広告に必須であった大規模な露出=規模の経済ではなく、どんなワードであっても少なからず検索され、そこには必ず広告が掲載されればいいという範囲の経済による「新たな広告」が廉価なプラットフォーム上で発生するイノベーションもあったからだ。

 長らくリクルートで新しいメディアを生み出し続け、現在フューチャーデザインラボ社長を勤めておられる竹原啓二さんとお話させていただいた際に、「きちんとターゲットが絞り込まれ、そこへのリーチを保証できるのであれば、新しいメディアであったとしても、束見本を見なくとも買ってくれる広告主はいる。そういった確固とした意思を持った広告主を少なくとも集めれば、メディアは成功する」といった内容のお話を伺った。

 では、ネットはこうした広告主を集めてこられたのか?ただ単に、漠然とした需要を取り込んだだけの可能性はなかったか。彼らの意思を反映するようなメディアをしっかりと提供できていたのだろうか。

 代理店の多くが、ネット・メディア・レップ(ネット媒体を専門にした広告代理店)を完全子会社化するという発表が相次いだが、果たして広告主の求める成果を生み出すことに貢献できるのだろうか?

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