ユーザー中心のメディア/コンテンツのデザインを目指せ - (page 3)

制度も柔軟なメディア・インフラを前提とすべき

 視点を変えて、作り手と受け手にとってメディアは柔軟であることを前提に「共創作共消費」が生まれてきたという議論を続けてきたが、それは現実なのか。

 確かにインターネットは自由度の高いインフラであり、多種多様なプラットフォームやアプリケーションが利用可能だ。しかし、インターネットは例外なのだ。それは、その由来から通信とみなされてきたため、「通信の秘密」の対象であることが大きい。結果、消費の一形態でもあるパーソナルコミュニケーションがコンテンツと相互作用を生むようになった。

 しかし、ポータルが地方TV局や新聞以上に多くの人々の目に触れ、ブログやSNSでの発言が大きな影響を生み始めている現在、これまでにないメディアとして何らかの規制が必要ではないかという議論も生まれている(ケータイのフィルタリングなどの民間自主規制の動きなどはその1つの結果だ)。

 結果、放送と通信など既存メディアを包含した法体系(いわゆる「情報通信法案」と呼ばれ、2006年夏より「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」が議論を重ね、中間とりまとめを行っている)を整備し、その中でインターネットの一部アプリケーションを対象に「公然通信」というメディアとして位置づけ、なんらかの規制をかけていこうという流れがある。

 この議論の流れでは、従来の既存メディア別の縦割り法からの脱却を狙い、「伝送インフラ」「プラットフォーム」「コンテンツ」からなる3レイヤーモデルを採用している。3レイヤーモデルというフレームワークは、かつて通信の自由化を進めるに当たって考案され、その後さまざまな公共サービスへ適用されるようになった、シンプルかつ強力なツール(フレームワーク)だ。しかし、それは既存の設備型事業をより柔軟に運営するために考案されたものであり、「ネット後」の現在、あるいは将来への航海図として活用するためには、若干、ひねりを加える必要性がある。

 放送事業者は純粋にレイヤーモデルを適用すれば、よく言われるように「上下分離」ではなく、3つのレイヤー(送出/編成/制作)に区分できるという理解ができるが、必ずしもそれらは分割運営する必要もない。

 しかし当初提示されたモデルでは、3レイヤーとは関係なく、継続した縦割りを維持した「特別メディアサービス」とするなど、事務局側の苦労はしのばれるものの、レイヤーモデルを採用する根拠を薄め、メディアの柔軟性が高まってきている状況に逆らう結果になってしまった。

 いずれにしても、これらの放送・通信の融合や連携といった議論には、どうも重要なステイクホルダーであるユーザー(消費者、広告主)のメリットという視点が欠けてはいないか。事業の当事者の意向を大切にすることは、決して間違ってはいない。しかし、時代の流れに沿って変わるべきものを、護衛船団型行政によって維持し、結果、ソフトランディング的な痛みではなく、ハードランディング的な苦しみを味わうことを、業種は違えど、再び行ってしまうのはいかがなものだろうか。事業者は自ら変化するものとし、ユーザーを中心としたメディアのデザインを可能にするグランドデザインこそを行うインフラ/制度であってほしいと思う。

 具体的には、前回のエントリで示したような地産地消型メディア/コンテンツの実現が容易にならなければ、今後、GDPが当面マイナスに振れる国家では現実に即しているとは言えない制度に他ならないのではないか。

 基本は、誰のためのメディア、コンテンツなのか、という点においてブレないこと。それはメディアやコンテンツのプレーヤー自身だけではなく、制度設計を行う方やその批評・評価を行う方にとっても、意外と忘れがちな、しかし、常に立ち戻るべき「原点」であろう。ただ、厄介なことには、この社会においては、原点自体がムービング・ターゲットということ。時代に棹差すことは不可能であり、むしろ流れに身を任せること。そして、そうでありながらも、原点を見失わないこと。

 そんな姿勢そのものが、運動論になり、次世代の優れたメディアの登場のきっかけになることを期待したい。

森祐治

国際基督教大学(ICU)教養学部、同大学院(修士)、同助手を経て、米国ゴールデンゲート技術経営大学院(MBA:通信・メディア)およびニューヨーク大学大学院コミュニケーション研究Ph.D(博士)へ奨学生として留学。その後、早稲田大学大学院国際情報通信研究科に学ぶ。

NTT、Microsoftを経て、McKinsey & Companyに転ずる。同社を退職後、アニメ作品投資とプロデュース、メディア領域のコンサルティング、インタラクティブサービスの開発などを行う「コンテンツ・キャピタル・デザイン・カンパニー」株式会社シンクの代表取締役に就任。

また、政府系委員会、メディア・コンテンツ領域団体の委員や、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・九州大学大学院芸術工学研究科などで教鞭を執る。

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