コンテンツに必要なのは「流通」ではない--政府の動きにホリプロ会長らが反発 - (page 2)

永井美智子(編集部)2008年12月09日 23時57分

 この背景には、コンテンツはいくらでも無料で手に入るもの、という若者の認識があるようだ。「平成元年生まれの人は、現在大学2年生。ものごころがついたときにはデジタル環境がまわりにあり、無料のメディアとしか接しない傾向が非常に強くなっている」(砂川氏)

 無料のコンテンツしか経験がない人に、有料コンテンツの価値をどう伝え、コンテンツにお金を払うことを知ってもらうか。そこに最大の課題がある。「難しい本を買うとか、映画を映画館で見ることの良さを伝えていかないといけない。ネットにある無料のコンテンツで育っていることが、その世代にとって幸福とは思えない」(砂川氏)

ネット法、日本版フェアユースに非難集中

立教大学の砂川浩慶氏 立教大学の砂川浩慶氏は、産業論一辺倒の議論に危機感を示した

 ディスカッションでは、ネット上でのコンテンツ流通を促すための方策として提案されている「ネット法」や、「日本版フェアユース」について非難の声が多く上がった。

 「立法論的に見ても現実論に見ても、最低最悪」(岸氏)、「(権利処理が)面倒くさいから取り締まってしまえというような乱暴なやり方。不満がたまってしまうだけで、決してうまくいかない」(砂川氏)、「誰かが安くコンテンツを使いたいからやっているだけ」(堀氏)、「コンテンツの一瞬の促進になるが、その先にバラ色の未来は見えない」(菅原氏)というのが各人の意見だ。

 ネット法とは、ネット配信に関する権利を新たに「ネット権」として定義し、公正な分配ができる者だけに与えようというもの。デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムが3月に提言した。

 日本版フェアユースとは、米国の著作権法などで規定されているフェアユースを手本に、権利者の利益を不当に害しない範囲で、権利を制限しようというもの。知的財産戦略本部のデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会が11月に提出した報告書の中で、導入が提言されている。

慶應義塾大学の岸博幸氏 慶應義塾大学の岸博幸氏は、政府の政策が民間の意欲をそいではならないと警告する

 岸氏は「権利を制限するには公益性がないといけない。デジタルコンテンツの流通が公益かといえば、そんなことは認定されていない。米国ではプロデューサーに権利が集まっているから権利処理が楽だという話があるが、プロデューサーは資金集めのリスクを背負っており、そこへの対価という考えがある」と日本と米国の事情は異なると話す。

 フェアユース規定についても、「ベンチャーの(訴訟に関する)リスクを下げるという意味不明なことを言っている。フェアユース規定がないとネットベンチャーの活動が違法になる可能性があるので萎縮してしまうというが、こんな規定を作ったらコンテンツを作る側への萎縮効果があるはずだ」と岸氏は断言。「なんで『日本版』と付けるのかも意味不明だ」(岸氏)として、米国のフェアユース規定と発想や狙いが異なることに疑問を呈した。これには安念氏も「米国のフェアユースは、著作権の保護が他人の表現制限につながるため、その安全弁として設けられたという考え方が一般的だ」と話した。

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