UI 設計の第一人者アラン・クーパー氏は著書「About Face3」の中で「ゴールダイレクテッドデザイン概念」とユーザーのゴールを把握するための「民族誌学的インタビュー」について言及していますが、「ユーザー行動観察調査」はこの「民族誌学的インタビュー」に類似する側面を持っており、「個々の製品とインタラクションする人々の行動や習慣を理解することを目標とする(「About Face3」P.80より引用)」ものとして活用できる可能性を持ちます。
ユーザー行動観察調査を実施することにより具体的にどのようなメリットが得られるのかをご紹介していこうと思います。
ターゲットユーザー分類を行う際に重要なポイントは、「ユーザー行動に影響を与える要素で分類すること」です。サイトリニューアルにおいても対象となるターゲットの検討を行っていると思いますが、サイト運営者が事前に想定しているターゲットユーザー分類が実態と乖離してしまっているケースも残念ながらあります。
ユーザー行動観察調査では、特定の文脈(コンテキスト)でのユーザー行動を観察するわけですから「ユーザーの行動に影響を与える要素」がより明確に把握することができます。以下に、ある金融機関の住宅ローンサイトにおいて、現場ヒアリングとユーザー行動観察調査を経てターゲットユーザー分類が修正されたケースをご紹介します。
図表2:ターゲットユーザー分類の修正例(「ユーザ中心ウェブサイト戦略 P.234から抜粋」)
この例では、ターゲットユーザーの分類軸が変わったことで、物件確定後の「業者不安ユーザー」「金利選好ユーザー」を説得するコンテンツを提示する方向でサイトを構築していかなければいけないことが明確なったのです。当初の分類でサイトを構築していたら全くズレた構造・コンテンツになっていたことは想像に難くありません。
「行動原理」とは、行動を突き動かすユーザーにとっての根源的なゴール(そのような行動をしてしまったことの背景や本当の理由)のことです。
ユーザー行動観察調査では、ある状況下でのユーザーの一連の行動を観察することから、当該文脈(コンテキスト)内での行動や反応を総合的に分析することで、その裏にどのような想いやニーズがあったのかの仮説を導出できる場合があります。
この仮説を元に改善の方向性を検討することにより、場当たり的で表面的なユーザーインタフェースの課題潰しというレベルから一歩先に行くことができるのです。
一般的なユーザビリティテストでは既に存在しているユーザーインタフェースを評価するため、現状をベースにどう良くするかという思考に陥りがちです。当該ユーザーインタフェースが誰に・何のために提供されるべきなのかのという本質まで遡った改善提案を導出しにくいのです。
ユーザー行動観察調査はターゲットユーザー分類を明確にし、各ユーザータイプの行動原理を特定できる場合もあるため、誰に対して何を提供すればビジネス的なメリットが得られるのかという本質に遡った検討を可能にします。極端なケースでは、調査結果が当該サイトリニューアルを実施すべきではないという決定の手助けとなり、クライアントの無駄な投資を未然に防ぐことができたという話も実際にあります。
ユーザビリティテストの進化系(深化系?)ともいうべきユーザー行動観察調査がユーザー中心アプローチに必須のものとして今後のサイト構築のプロセスとして一般的になる日は近いはずです。
参考書籍:
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