雑誌の生き残り戦略の基本となるのは電子媒体でのビジネス展開である。従来、紙媒体での販売減少を恐れて電子媒体への取り組みが遅れがちであったが、最近は各出版社とも積極的に電子媒体での配信に意欲を見せている。
現在見ることのできる電子雑誌のほとんどは既存の紙媒体の編集やデザインをそのまま電子的な紙芝居にしたものだ。Fujisan.co.jpは米国Zinio社のシステムを使っていたが、現在は他の電子雑誌と同様に紙媒体のページ情報を画像にしたものをFlash形式で配信している。
電子雑誌のビューアーには各社いろいろ工夫を凝らしている。閲覧のためのボタンや3Dアニメーションを使ったページめくりなど、これまでになかったユーザーエクスペリエンスを実現している。ユーザーのモニターのサイズに依存するが、15インチ以上でSVGA以上の解像度があれば、閲覧するのにそんなに苦労はしない。ビュアーによって、拡大縮小機能や検索機能などに差があるがおおむね同等といえる。
一部の例を除いて現在のところ電子雑誌にはDRM(Digital Rights Management)は施されておらず、出版社にとって懸案事項となっているようだ。
今のところ、見本誌として一部分のみを電子化したり、バックナンバーのみを公開したりしているのも、まだ紙媒体の販売を第一に考えているからであろう。efなどの電子媒体のみの場合は紙媒体の販売を気にすることはないのだが、完全無料ではなく有料モデルになっている場合はDRMを考慮しなくてはならない。
DRMが必要になるのは有料コンテンツの流通のコントロールと同時に、コンテンツの著作権や肖像権の保護のためである。通常、著作権者との契約が紙媒体だけの場合、電子媒体で配布することができない。電子媒体を契約に含めようとすると契約金額が上がるか契約ができないこともある。出版社でコントロールできる編集ページの場合はまだいいが、広告ページの場合はその権利関係の処理が問題になる。
以前、R25がFujisan.co.jpで紙紙面のまま配信された時も、広告ページだけは空白でなんとも間の抜けたコンテンツであった。R25はその後すぐに紙面のままの配信を止めて、今はウェブサイトとしての展開をしている。
朝日新聞出版のAERAが今、同じようにFujisan.co.jpで配信しているが、R25同様に広告ページが空白になっている。AERAはもともと有料のコンテンツだが、R25の場合フリーペーパーということで広告抜きの配信というのがどういった意味を持つのか疑問だった。
このように紙媒体の紙面そのままで電子化する場合にはいくつかの壁があるのだが、企画、編集の段階から電子配布を前提として著者やカメラマン、または広告代理店との契約を処理すれば問題ない。
現状ではそこまで本腰を入れて電子媒体を真剣に考えている雑誌は少ないために、どうしても曖昧な電子化ということになってしまう。紙媒体と電子媒体を総合的に考えたビジネスモデルが存在せず、取材や編集にかけるコスト、載せる広告の適正な価格などが未開拓だというのが現実だ。
実際、どの雑誌もまだ本格的にビジネスモデルを変革するところまで達していない。ただし、これまでと大きく違うのは各出版社の危機感が感じられることだ。ここにきて歴史のある著名な雑誌が次々と休刊になっている。「主婦の友」、「広告批評」などだ。
これらの雑誌はそれぞれユニークな視点と取材ノウハウを持った雑誌だが、落ち込む販売部数と広告費減少の前にはどうすることもできなかったのだろう。
現在のところまだ電子雑誌としての成功例を語るには早すぎる。出版社、広告代理店、インターネットポータルなどの各社が新しいビジネスモデルの構築を目指して試行錯誤している段階だ。
電子雑誌はともするとビューアーの機能に眼が行ってしまいがちだが、ビジネスモデルの根幹はコンテンツの内容と広告モデル、そしてコンテンツの内容に基づく他のビジネスへの広がりをどのように築くことができるかがポイントになるだろう。
雑誌で紹介された物品をすぐに購入できるサービスやコンテンツの内容にマッチした広告、それもダイナミックに変更挿入される広告などが考えられる。そして広告の効果測定の技術が組み込まれることにより紙媒体とは決定的に違う、広告主にとってより理想的な媒体に成長する可能性がある。
DRM技術もこれらのビジネスの変化に対応することが要求されている。単にコンテンツの複製を抑制し不正利用を防ぐだけの技術ではなく、より魅力的な電子コンテンツビジネスが生まれるような基盤を提供するものになる必要がある。DRMそのものについての議論は様々に行われているが、それらについても少しずつ触れていきたい。
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