フリービジネスの原資を確保せよ - (page 2)

先進国広告産業、成長の理由

 まず、先進国の媒体別の広告出稿額とその人口当たりの金額を見てみよう。

先進国の2007年媒体別広告出稿比と一人当たりの広告額 先進国の2007年媒体別広告出稿比と一人当たりの広告額
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 これを見ると、国ごとに構成媒体比率が大きくと異なること、1人当たりの金額が大きく異なっていることがわかる。そのため、直接の比較は難しいということになろう。

 しかしながら、その内容はどうであれ、1人当たりの広告投下額を見ると、日本よりも英国、さらには米国の方が、広告費を前提としたビジネスを行えば、広告単価の違いから成功確率が違ってくる可能性が高いことがわかるだろう。

 実際、WARCの別の調査とTHINKの独自調査によれば、テレビの広告単価は全米全テレビ局の平均を100とした場合、日本は58。また全米ネットワーク局のみとの比較で行くと、日本は24という結果が出ている(井上「グラ男」景介さん@THINK、ご苦労様でした!)。

 また、成長目覚しいネット広告でも、違いは大きい。日本では依然としてバナー広告が主流だが、欧米では映像を用いた“ブランデット・エンタテイメント”がキャンペーンでは多用されており、その制作費用は桁違いだ。

 加えて、高額なポータル・サイトへの広告掲載よりも、CGMなどソーシャルメディアを活用し、掲載料を節約するなどしているため、そもそもその基準は大きく異なってきている。

 また、検索テキスト広告でも、もっとも高価なワード(たとえば「自動車保険」)を選んで日米で比較してみると、ほぼ3〜4倍の開きがあり、同じ広告収益型のネット・ビジネスをするなら「市場規模第2位」の日本よりも、米国や英国(すでにテレビ広告をインターネット広告が凌駕しつつある!)でスタートした方がより成功しやすいということになる(これが「日本のネットベンチャーがうまく行かない理由」の大きなポイントなのかもしれない……)。

 なにはともあれ、これらの数値はある現実の一側面を示しているだけであり、国そのもの発展(中国など新興国)、あるいは先進国におけるGDPの成長以上に広告などフリービジネスの原資が成長した根拠を示しているわけではない。

 また、その答えを直接示す統計はあまり見当たりそうもない。そこで、ここから先はあくまで僕の仮説ではある。

 1つには、先進国においてIT導入などにより積極的に産業構造が変化した。比較的単純なものとなった結果、中間的な存在にリベートといった形で費やされてきたマーケティング費用が製造業など川上では広告費として、大規模小売など川下では販売促進費へと転換されてきたと考えられる。

 これについては、THINKではメディア関連事業領域で一部実証を行っているものの、完全な検証は終わっていない。が、昨今、大手流通チェーンが積極的に導入している「プライベートブランド」商品が1〜3割もの価格圧縮を可能にしていること、McKinsey & Companyのシンクタンク部門であるMGI(McKinsey Global Institute)が行った世界競争力調査で、日本の小売を含む流通構造が非常に複雑で非効率的な状態にあることを示していることが、その傍証と言えるのではないだろうか。

 その後、流通において大規模店舗への急速な転換が図られ、結果的に産業構造は単純化されてきているものの、いまだ全体としては他先進国にはほど遠いままなのかもしれない。

 さまざまなメディア、特にパーソナルが発展した環境において、小売がマーケティング費用を費やせるようになると、ローカル広告市場が成立してくる。

 そもそも米国や欧州では、全国と地域(米国では中間に複数州をまとめた階層もある)といったように、メディアが複層化しており、それぞれごとに異なるメディアが異なる広告を取り扱ってきた。

 特に、広告だけではなく、直接的な販売促進効果を狙うサービスがネットなどで可能になってくると、それら新興メディアへ流入するローカルの費用は、媒体間の乗り換え以上のスピードで増大しつつある。

ローカル広告市場:低迷しつつあるTVと急成長するネット ローカル広告市場:低迷しつつあるTVと急成長するネット
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 日本でも、新聞チラシなどが郊外では効かなくなってきているという声をよく聞く。

 新聞の購読世帯数が減ってきているなどの理由があるに違いないが、それに対してコンビニやホームセンター、専門小売チェーン、そして大規模小売といったさまざまな小売事業者が代替となるメディア・ソリューションを求めてきているものの、まだ決定打は存在していない(一方で、米国のネットワークテレビ局はその平均視聴率は下がっても、特定セグメントへのコンテンツの魅力を高めることで広告効果を高め、結果売上を増大するという現実もある)。

 このように先進国では、産業構造の変化が広告費というドライバとなって、エンタメばかりではないメディアやコンテンツ市場の変化を促し、結果的にローカル広告のエコシステムを構築しつつある。それらが積み重なって、GDP成長以上のコンテンツ、あるいは広告市場の成長を可能にしたのではないかと思う。

 「じゃあ、産業構造全体の変換ができないと日本は沈む一方じゃないか」、という声も聞こえてこよう。そう、先進国の変化は、M&Aなどこれまでにはなかった金融・経営手法の発展で微細・断片化が恒常状態だったさまざまな産業が、単純で大規模な少数の企業へと統合する過程で生じた結果であろう。

 だが、それが絶対の筋道とは思わない。むしろ、気がつけば光ブロードバンドが全国に張り巡らされ、ほとんどのケータイユーザーが3G端末を所有する日本では、違った道があってもいいのではないか、と思う。ローカルの商品が、ネットで購入され、宅配便で全国津々浦々まで配送されるという日常があれば、先進国で起こった変化とは逆のプロセスが生まれるのではないかと、期待している。

森祐治

国際基督教大学(ICU)教養学部、同大学院(修士)、同助手を経て、米国ゴールデンゲート技術経営大学院(MBA:通信・メディア)およびニューヨーク大学大学院コミュニケーション研究Ph.D(博士)へ奨学生として留学。その後、早稲田大学大学院国際情報通信研究科に学ぶ。

NTT、Microsoftを経て、McKinsey & Companyに転ずる。同社を退職後、アニメ作品投資とプロデュース、メディア領域のコンサルティング、インタラクティブサービスの開発などを行う「コンテンツ・キャピタル・デザイン・カンパニー」株式会社シンクの代表取締役に就任。

また、政府系委員会、メディア・コンテンツ領域団体の委員や、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科・九州大学大学院芸術工学研究科などで教鞭を執る。

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