角川デジックス代表取締役社長の福田正氏、クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏、フロムイエロートゥオレンジの代表取締役社長でゲームクリエイターの飯野賢治氏が8月1日、札幌で開催された著作権関連のイベント「iSummit '08, Sapporo」に登場。ユーザーの二次創作に対する著作権者の思いを語った。司会はCreative Commons CEOの伊藤穰一氏が務めた。
角川デジックスはYouTubeなどのメディアを活用し、角川グループホールディングスのコンテンツの収益拡大を図ることを主な事業としている。YouTubeでは角川のコンテンツを使ってユーザーが投稿した二次創作動画(MAD)のうち、優れた作品を公認するほか、YouTube内の角川公式チャンネルで紹介するといった取り組みをしている。さらに、公認作品の再生画面に広告を掲載し、その収益を角川とYouTube、制作者の3者で分け合う考えもある。
福田氏はMADについて、「気にしてるのは(作品の)モラル権」と語る。つまり、作者や角川の意図しない形でキャラクターが使われ、それによってキャラクターの印象が損なわれることを最も恐れているのだ。
このため、角川ではYouTubeに投稿されたMADについても、「わからないまま評論してもしょうがないので、延々と何十万ファイルを(1つ1つ)見た」(福田氏)。その上で、角川が用意した10の基準に基づき、そのMADを公認するか、また広告を掲載するかということを判断したという。例えば角川が権利を持ち、承認している素材のみを使ったMADであれば公認動画とするほか、広告収入の一部をMAD制作者に還元する。逆に、作家が嫌がるようなMADであれば、YouTubeから削除する。
一方、クリプトン・フューチャー・メディアの「初音ミク」をはじめとしたボーカロイドのキャラクターは、よりユーザーが自由にMADを作れるようになっている。具体的には、個人や同人サークルが非営利目的で作る場合には、基本的に制限を設けていない。
「自分たちは音楽に関連した会社なので、キャラクター(ビジネス)に関してはわからない。わかるのは、ユーザーにとってどうかということだけ。杓子定規で禁止してしまうと面白くないので、クリエーターであるユーザーにとってこうしたほうが良いと思うことをしている。また、目立ったほうが(ボーカロイド製品が)売れるかもしれないから良い、という気持ちが根本にある」(クリプトン伊藤氏)
実際、初音ミクはユーザーが作ったMADが広告の役割を果たし、「1000本売れれば『良かったね』というところが、最初の1週間で3000本売れた」(クリプトン伊藤氏)という。
ユーザーの制作を支援するため、2007年12月には同社のボーカロイドのキャラクターに関するイラストや曲、歌詞をユーザーが投稿しあえるサイト「ピアプロ」を開設。投稿されたコンテンツは、ほかのユーザーが非営利目的で使えるようになっている。「コンテンツホルダーは二次創作されないようにとか、権利侵害されないようにと考えるのが普通だが、二次創作の力を信じてサイトを用意した」(クリプトン伊藤氏)。結果としてピアプロはクリエーターの協業の場となり、さまざまな作品が生まれている。
クリプトンはもともと音源などを販売している企業であり、「クリエイターのクリエイティビティを刺激する」(クリプトン伊藤氏)ことを会社の方針として掲げていくとのことだ。
こういった取り組みは、飯野氏も「落書きからキャラクターが生まれることもある。オンラインで落書きができなくなると、キャラクターが作れなくなる」として、自由に創作できる環境が重要と評価していた。
ただ、角川、クリプトンともに、商用での利用に関しては現在のところ許諾していない。クリプトンの伊藤氏は「商用、非商用の線引きを決められるのか。例えば、非商用利用を許諾したコンテンツを、広告を掲載している媒体に載せても構わないのか。(バナー広告ではなく)アフィリエイトならいいのか。料金が原価(制作、運営費用を賄える程度)ならいいのか。そのあたりの線引きが固まるといい」と話す。
また、角川の福田氏は自分たちの作品を無断掲載して広告収入を得る企業が出てくることを問題視している。「グーグルの検索結果画面など、システム部分に広告が出るのは気持ち悪くない。ただ、作家などともとことん喋ったが、動画と一緒に表示される広告は露骨に『営利』だと思う」(福田氏)。このため、YouTubeでは動画再生ページのうち、角川の公認動画のみ広告が表示されるようにした。Googleはここでの収益を角川、動画制作者と分け合うことになる。「YouTubeはこのモデルを全世界に広げると言っている」(福田氏)とし、世界に先駆けた取り組みであると強調していた。
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