iモードの育ての親として知られる、元NTTドコモ執行役員の夏野剛氏がドワンゴの常任顧問に就任した。「ニコニコ動画の黒字化担当」として、積極的にニコニコ動画の運営にかかわっていくという。
夏野氏はなぜ、新たな活躍の場としてニコニコ動画を選んだのか。また、夏野氏の参画で、ニコニコ動画はどう変わっていくのだろうか。夏野氏と、ニワンゴ取締役管理人の西村博之氏(ひろゆき)に話を聞いた。
夏野:ずばり、面白いからです。慶應の教授などいろいろなことをやっていますが、メインはこれ(ニコニコ動画)です。
ドワンゴが面白いと思うのは、こんなに成功した「ITベンチャーっぽくない企業」はないから。まず、威張らない。贅沢しない。自分の力を過大評価しない。一回成功したビジネスモデルにこだわらずに次へ行く。
iモードが始まって、最初に成功したモバイルコンテンツのビジネスモデルって、アビトラージャー(鞘抜き屋)なんですよ。まだiモードが大きくならないころ、オリジナルのコンテンツを持っている人たちが「携帯電話なんてどうかな」と言っているころに、「僕らが代わりにやりますから」と言った人たち。
そのころ僕はドコモにいて、彼らのおかげで大きなプレーヤーのコンテンツがiモード上に載ってきた。すごくありがたかったし、良かった。でも、これだけiモードが大きくなると、そのビジネスモデルはもう通用しない。コンテンツホルダーは自らコンテンツ配信を始めましたから。
ところが、この2000年〜2002年ごろのビジネスモデルから脱皮できているモバイルコンテンツプロバイダーって、あまりいないんですよ。
ドワンゴは、もともとゲームの会社だったんです。それが、いつ着メロの会社になったんだ?と思っているうちに、着メロの上位4社の1つに入った。1999年〜2001年ごろまで、着メロはカラオケ系の会社が圧倒的に強かった。それに対して、まったく同じ楽曲で勝負するんじゃなくて、変わったもの、クリエイティビティ(創造性)で勝負した。
……と思ってたら、いきなりPCで動画のサービスを始める。こういうところが面白い。市場が一定以上飽和すると、会社がどんどん次にチャレンジして新しいことをやっていく。
ひろゆきも含めて社員の人に「モチベーションは何?」と聞くと、「面白いことをやっていること」と言うんですよね。
西村:それはそうですね。
夏野:結果としてそれでお金持ちになればそのほうがいいんでしょうけど、「立派な家や飛行機を買いたい」というような人がIT業界には多い中で、あまりそういうところがなくやっている会社というのはすごく面白い。
ネットなんだから、常に新しいものにチャレンジして新しいものを生み出すということをしていかないと、ネットじゃないと思うんですよね。
西村:最初はみんなそれがあるんですけど、大人の会社とのやり取りが必要になると、大人を呼んでこないといけなくなるんですよ。そこで大人のプロトコルしか知らない大人が来ると(会社が)大人になっちゃうんですけど、うちの場合はたまたま大人のプロトコル以外も知っている夏野さんだったから、まだ大丈夫と(笑)
夏野:ニコニコ動画はびっくりしましたね(笑)。最初、(ドワンゴの)川上会長が「今度、こういうのをやるから見てください」と言ってきて見たんです。1年半くらい前ですね。ニコニコ動画が始まってすぐですよ。
夏野:最初ね、単なる動画サービスだと思ってたんです。
西村:最初はまだ、社員もあんまりコメントを付けていなかったですもんね。
夏野:その時は、「そう、頑張ってくださいね」で終わったんですよね。ただ、「これからはPCインターネットです」と熱く語っていて、それは正しいなと。コンテンツプロバイダーとして、モバイルで生きていこうとするとオリジナリティが必要になるから、自分でコンテンツを買うか全く新しいものを作るかしかない。単なるアグリゲーター(収集者)の役割が終わっちゃってる中で、PCと連動してモバイルもやるというのは正しい。「絶対PC(の市場)を取りに行きますから」と言うので、「がんばって。応援しますから」というくらいだった。
その後、もう1回、「お客さんがすごい付いているんですよ」と言って持ってきたときには、もう、弾幕がついていた。去年の4月か5月くらいかな。
そのときには、「これは今までと違うものができてるな」と思った。いままでインターネット上のウェブサイトで、本当にユーザー参加型で、メディアのように使われているサイトはなかった。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やコミュニティは、現実の井戸端会議がネット上に移ったようなものじゃないですか。でもニコニコ動画は、そういう要素もありながら、メディアのような役割もある。ユーザーは自分の友だちと動画を単に共有するだけではなく、面白い動画がどこにあるのかと探しまわっている。Yahoo! JAPANを見るような感覚で、自分が気に入る動画はどこにあるかと探しながら見ている。
しかも、単に動画が共有されているだけではなくて、コンテンツが生きている。あの(動画上に付けられた)コメントが面白いということは、その場で動画に付加価値がついているということ。投稿された動画そのものが面白いというのもあるかもしれないけれども、コメントや突っ込みがさらに面白い。こういうコンテンツは今までのインターネットにはなかったなと思ったんですよね。だから、すっげえ面白いなと思って。これはもしかしたら、世界で初めてのサービスなんじゃないかなと。僕は「世界で初めて」に弱いんだよね(笑)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス