株式市場で長らく物色人気の圏外となっていたNTTの株価に変化の兆しがみえてきた。1987年2月の株式上場以来21年余り、その間NTTドコモ、NTTデータ、NTT都市開発など、自社の高収益事業部門の分社化などによる子会社・関連会社を積極的に株式上場させる戦略をとってきたものの、肝心の自社株式の株主対策には消極的といわれても仕方のない状態が続いていた。株価は上場直後に急騰をみせ、318万円の上場来高値をつけてから、長期間の低迷を続けており、ここ7年間も40〜70万円の底値圏での推移を強いられてきた。
こうしたなかで、5月14日の東京株式市場でNTTの株価が大量の買い物を集めて、2003年11月以来約4年半ぶりに値幅制限いっぱいのストップ(5万円)高の49万8000円まで買い進まれた。ひさしぶりに強烈な買い人気を集めた背景には、複数の買い材料が重なる好条件をNTTが一気に発表したことによる。
第一には、5月13日に発表した同社の前期2008年3月期の決算と、今期の2009年3月期の業績予想への市場関係者の高評価だった。2008年3月期の連結決算(米国会計基準)は売上高10兆6808億円(前々期比1%減)、営業利益1兆3046億円(同17.8%増)、純利益6351億円(同32%増)となった。
売上高が横ばい、営業利益が増益となったのは、IP系・パケット通信収入やシステム構築・端末販売が伸びたものの、音声関連収入の落ち込みを補いきれなかったが、費用の圧縮などが増益に寄与した。また、営業利益が大幅増益となったのは、厚生年金の代行返上などの特殊要因が利益を押し上げる結果となった。ただ、代行返上益などの特殊要因を除くと前々期比3.4%増の1兆1447億円となる。
2009年3月期の連結業績予想は、売上高10兆7500億円(前期比1%増)、営業利益は1兆1600億円(同11%減)、純利益5000億円(同21%減)となっている。この業績予想は、表面上減益となっている。
ところが、市場関係者からは「2008年3月期の利益を押し上げた代行返上益を除く実質ベースで比較すると2009年3月期は実質増益となる」との評価で、買いが先行したようだ。また、2012年度を最終年度として、連結営業利益1兆3000億円(特殊要因を除いた2008年3月期の実績1兆1447億円)と、5年間で18.2%増(年率3.5%増)を目指すという中期経営計画も大きな支援材料となっている。
加えて、今回NTT株への買い人気を誘う大きな要因となったのが、(1)増配、(2)自社株買い、(3)株式分割――の3点セットの株主優遇策の発表だった。2009年3月期の年間配当を前期に比べて2000円増やし1株当たり1万1000円とする増配を明らかにした。
また、上限45万株(発行済み株式数の3.3%=約2000億円)を上限とした自社株買いを実施する。自社株買いは、発行株式数の減少による1株利益の向上につながる。
さらに、従来の1株を100株(100株を1単元)にする株式分割を2009年1月4日に実施する。今回の株式分割は、2009年1月の株券電子化(ペーパーレス化)が間近に迫ってきたためで、電子化以降は1株未満の「端株」を「振替株式」として認めないことから、端株の所有者を救済しようというものだ。株式の100分割で、株価は理論上、100分の1となるが、同時に100株を売買の1単元とすることで、売買に必要な最低限への影響を食い止める内容となっている。NTTの株主は2008年3月末現在で約108万人、端株の株主も約65万人とされている。これらの増配、自社株買い、株式分割の実施は株主にとって朗報といえる。
NTTの株価は、2007年末の56万円台から下落トレンドをたどり、2008年3月17日には40万7000円の年初来安値をつけた。その後、全般相場の反転上昇に連動して40万円台での推移となってきた。そして、今回の決算発表、積極的な株主優遇策の公表が好感されて50万円台に乗せてきた。
しかし、連結PER(1株当たり株価収益率)は16倍水準と依然割高感はないうえに、直近5月17日申し込み現在の東証信用残は、買い残の急速な減少で1.48倍と取組妙味が増してきた。さらに、株価チャート面でも移動平均線の75日線を25日線が下から上抜くゴールデンクロスを示現しており、株価の先高感が高まっている。
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