それでも僕らは、この新たなる地平を生き、そのためには何らかの方法でこの複雑な世界を御して、あるいは共棲していかなければならない宿命にある。多分にそれは、これまで存在してきた方法とは一線を画するものになるに違いない。
統計的な一種のリアルオプション的(0か1かではなく、発生確率分布に応じた期待値で判断すること)な発想でしか、コントロールすることはできず、つねにリスクとリターンのバランスでしか語れないようになるのかもしれない。あるいは、きれいな設計図など存在せず、常に変化する余裕を有したモジュール間の接合でしかないのかもしれない。だが、明らかに言えることは、もう誰も引き返せない、という厳然たる真実が存在しているということだ。
この漠然とした危機感に、どう僕らは立ち向かえばいのか、僕にはわからない。しかし、立ち向かい、そして御することに賭けなければいけないということ、流れに押し流されていくだけでは何も生み出せないだろうという、焦燥感にも似た直感だけは確実にある。
面白いことに、そんな感覚を、米国に行っても、欧州に行っても、感覚の鋭い人が皆持っているということだ。その意味において、僕らはまさに黎明期にいるのだろう。そして、ここで生み出された様式が、これからの流れを決めていくのに違いない。いや、そんな初期値決定性なんてこと自体が、もう古いのかもしれないが。
いずれにしても、もっと積極的にダイナミズムを生み出すことに投資をし、過去が作り出したルールに拘泥することなく発想し、既存の倫理観に過剰に反応し委縮することが生み出す負のスパイラルから脱することが、この日本という国に住む一個人として、とてつもなく大切な気がしてならない。それが、このすでに始まっている新たな時代を主体的に生きるということに違いないのだから。
さて、突然ではあるが、気がつけばブログ時代を通算すればCNET Japanでも最も長い連載となったこのコラム「情報経済を読み解く」も今回が最後のエントリーとなる。きっかけを作ってくださったCNET Japan初代代表の御手洗さんと初代編集長の山岸さん、編集担当の永井さんと編集統括の西田さん、そして読者のみなさん、長い間、ありがとう。インタラクティブなメディアへの連載コラムという、これまでにない体験をいち早くできたのは幸運だった。
ネットの海は広大だ。みなさん、またどこかでお会いするにちがいない。が、ひとまずここは幕引きといこう。
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