アドビ システムズ代表取締役社長のGarrett J. Ilg氏は2月27日、2008年度の事業戦略を説明する場で「Adobeは今までのゲームのやり方を変える。つまり、ブラウザを超えていく」と表明した。同社はベータ版での提供が続いていたAdobe Integrated Runtime(AIR)の正式版を、2月25日にリリースしたばかりだ。
同社はAdobe Illustrator、Photoshop、Dreamweaver、InDesignといった個々の製品名でもよく知られている企業。つまり、これまでは個々の製品を、それぞれのユーザーが、発表したいメディアに合わせて選択、利用していたわけだ。
しかし、Ilg氏は「人々が、まだ登場していないメディアも含め、どんなメディアであっても(コンテンツを)使えるようにすることが重要だ」と語る。コンテンツ作成ツールの開発企業としてではなく、企画から制作、配信と視聴までを一貫して担える企業として、自社を位置付けているのだ。
また、1つのコンテンツを様々なメディアで活用することも支援していきたい考えだ。電子メールと紙媒体、Webサイトといった各メディアに同じメッセージを持ったコンテンツを露出させる場合でも、それぞれの分野を担う製品を活用することで、水平方向に展開できる仕組みだ。
また、現在各社が熾烈な縄張り争いを繰り広げているユーザーの足下、デスクトップにもコンテンツを届けなければならない。同社の基幹技術Flashは事実上のスタンダードとなっているが、利用はほとんどブラウザ越しというのが現状だ。ここで同社が注力するのがAIRとなる。
Rich Internet Application(RIA)としてのAIRについて、Ilg氏は「RIAは単なる見栄えの話ではない」と指摘。RIAを個人が利用するシーンは考えやすいが、企業での利用にも様々な効果があるという。
ここでサイトフォーディー代表取締役でクリエイティブディレクターの隈元章次氏が登壇。シャープ経営陣が利用しているAirアプリケーションについて解説した。
このアプリケーションはサイトフォーディーとSAPジャパンの共同開発によるもの。会場に65インチの液晶テレビが用意されてのデモンストレーションだったが、シャープの社長室でも同じものが常時稼働しているという。
経営層の迅速な意志決定を支援するためのツールで、各拠点・在庫・売上・利益などのデータをSAPの統合アプリケーションプラットフォームSAP NetWeaverを経由して呼び出し、わかりやすいかたちに加工して表示しているのだ。
隈元氏は「Airはエンタープライズ分野まで拡張できると考えている」と語る。「シャープの経営陣が日々、これを使って世界を見ている」(同)ことからくる自信だ。今後はビデオカンファレンス機能などを追加していきたい考えを示している。
同社は2008年、日本において事実上のスタンダードとなっているPDFとFlashといった技術に、AIRも加えていきたい考え。Adobe SystemsでAdobe Flexグループ プロダクト マーケティングマネージャーを務めるDave Gruber氏が「今週はAir 1.0とAdobe Flex 3のリリースローンチ週だった。私は世界のどこで発表するかを選択できたのだが、あえて東京での発表を選んだ」と語ることからも、日本市場での力の入れようがわかる。「日本は非常に重要な成長市場。RIAの展開という点で日本に潜在的な可能性が大きくあるため、あえて日本を選択した」のだという。
「RIAを導入することで、より幅広いユーザーにタッチできる」とIlg氏。様々なデータについて、経営層にはサイトフォーディーが開発したアプリケーションのような見せ方を、ビジネスマネージャにはBPMやワークフローツールとしての見せ方をできるのが特徴だという。
Ilg氏は「AIRを導入することで、自社がターゲットとしている市場において、(競合よりも)より良いビジネスパートナーになることができるだろう」と締めくくっている。
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