【開発者インタビュー】日本ビクター/HP-FX500--ヘッドホンの常識を覆す“木の振動板”にチャレンジ - (page 2)

堀江大輔(D☆FUNK)2008年02月29日 15時20分

樺材を薄く、小さく。巧みの技で仕上げる

--通常の紙やプラスチックの振動板に比べて木を使うメリットというのは?

伊藤 振動板の素材でスピーカーの音質は決まります。理想とされるのは、音が伝わる速さ(伝搬速度)が速いもの。この数値が高くなればなるほど、スピード感をもった広がりのある音になるんです。

 また、それと同時に音が響きにくいこと(内部損失)も重要。伝搬速度に関しては、素材を硬くすればするほど、速くなるが、そうすると素材自体に音がのってしまい、余計な残響が発生する。他の素材と比較して、伝搬速度が速く、内部損失も高い。両方の特性を兼ね備える振動板の理想素材が木だったんです。

 ビクターではウッドコーンスピーカーを完成した時点で、プラスチックや紙などに比べて難しいと言われる木の成形技術は習得していました。しかしサイズの小さなヘッドホンにその技術をそのまま導入するわけにはいかない。当初は音を鳴らすことすら困難でした。

ウッドコーンスピーカーSX-WD500 ヘッドホン以前に制作された木製振動板搭載モデル「ウッドコーンスピーカー」。この技術開発が、今回HP-FX500にも大きく寄与している

--木を振動板として利用することで、最も難しい部分はどこだったんでしょうか。

伊藤 やはりサイズですね。当初は素材や形を選び、大型のヘッドホンなどで試作を繰り返しました。しかし、商品化はあくまでインナーイヤーでというのが商品企画からの要求です。インナーイヤーの小ささで、木だけで振動板を作っても音が鳴りませんでした。そこで、プラスティックの振動板に木を積層して載せるという方法を考え出したんです。

 振動板の厚さは約10ミクロン。ここに薄く削りだした木を載せるのですが、最初は音を聞こうと思ってもドライブしない。動くようになっても、木が厚くて重いと動きが悪くなるので、いい音がでてこない。そこからは、どれだけ薄く木を削りだせるかが大きなハードルとなりました。

 そのために、日本の伝統的な工芸品に使われる工法で、試作に試作を重ねました。最終的には約80ミクロンの薄さ。髪の毛が100ミクロンですから、それよりも薄く木を削り出すことになりました。

--薄膜化させることが最大のポイントだったんですか?

伊藤 ええ。ただ、木材を薄くしていくと、穴があいたり、割れたりします。さらに商品として、バラツキがでないように仕上げなければならない。丈夫で成型しやすい樺材を使うことで、薄膜にしても破れにくくなりました。さらに、金型の精度を上げていき、ウッドドームのひとつひとつの大きさがずれたり、重さが狂ったりすることもなくなりました。

 削り出し、成型、振動板をつくるところはすべて手作業、匠の技でしたね。さらに、どれだけの木の大きさなら、木の音色が出るのかということを、切ったり貼ったりして追い込んでいきました。

澤田 今回はとにかく素材にこだわるということから商品企画がスタートしました。待望のドライバーユニットは理想的なものができた、ということを技術から聞き、だったら、ひとつひとつの部品を吟味して、さらに音質を重視していこう。音に対していい影響を与えるパーツをあつめて、音づくりしていこうよと、素材を徹底的につきつめていくという製品コンセプトを固めました。

薄膜技術とウッドドーム振動板 振動板に使用されているカバ材は薄膜技術により80ミクロンにまで薄くなる(左)。ウッドドーム振動板。中心の丸い部分が薄膜加工技術を施したカバ材となる。ドライバーユニット全体で直径8.5mm程度、ウッドドーム部の直径は約4.5mm程度の小ささだ(右)

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