一般に「データに関するデータ」と訳される「メタデータ」は、放送業界における近年の隠れた流行語のひとつ。自社コンテンツの保存(アーカイブ)やネットなどへのマルチサービスを展開するにあたり、デジタル化されたコンテンツに台本(進行表)、企画書、字幕などあらゆる関連情報を埋め込んでおく。それによって画像検索や権利処理作業をスムーズに行うことができるようになるためだ。
メタキャストが社名に掲げる「メタ」はもちろんメタデータの意ではあるが、番組コンテンツの視聴者から寄せられた意見、また視聴動向・傾向なども含められる分、放送事業者より広義でかつ、有効な情報だ。そして、その有効なメタデータをいかに効率よく、かつユーザに妙な意識をさせずに集めるかが同社事業のポイントとなっている。
創業者でもある同社代表取締役社長である井上大輔氏がメタデータに着目したのは、さまざまな分野で情報サービスを展開する某社に務めていた7〜8年前に遡る。米国で「TiVo」に触れて、HDDレコーダ時代の到来を直感した井上氏は、コンテンツ検索に用いる「キーワード」の重要性に着目する。
HDDレコーダの本格普及が進み、記録容量が膨大になれば、録画時の指定はもとより、視聴する際に「観たい部分だけを探し当てる」ための詳細なキーワードが不可欠と考え、そこにビジネスチャンスが生まれると予感した。
2005年4月、独立して会社を設立した井上氏が世に送り出した動画管理・再生ソフト「TAGIRI」。PCに録画したテレビ番組などの動画ファイルについて、自動的に関連メタデータつきサムネイル(静止画)を作成するソフトウェアだ。
当初、メタキャストのビジネスモデルは、フリーのソフトである「TAGIRI」をPC上で流行させ、家電メーカーが発売するテレビ用HDDレコーダへの実装、またはメタデータ配信ビジネス(メーカー向け)を成立させることにあった。
ところが、テレビ番組をPC録画するユーザ層が限られていたことから、前段階である「PC上での流行」が思ったほどに進まなかった。
一方その頃、PC上の動画サービスとして「YouTube」をはじめとする無料コンテンツ共有サービスが話題を集め始めていた。放送コンテンツが大量にアップロードされている状況に着目した井上氏は、「TAGIRI」を使ってもらう前段階として、YouTubeなどから気に入ったコンテンツを簡単にダウンロードできる「TAGIRIツールバー」を開発した。
「TAGIRIツールバー」はPCライトユーザからも高い人気を集めるようになり、現在では65万本を提供するまでになった。元々は「TAGIRI」利用促進を目指して投入したツールバーではあったが、普及が進む中で、ある有効なデータを集めるチャンスであることに気がつく。ユーザーがツールバーを利用して無料動画をダウンロードすることにより、そのダウンロード数や視聴履歴を収集することができるようになったのだ。
こうして収集された独自のデータは、動画検索エンジン「SAGURI」の登場へとつながっていく。ダウンロード数や視聴履歴という確かな情報を基にして、「巷で人気のある動画」や「キーワード入力による動画検索」を可能とした。信頼できる膨大なデータに裏打ちされた検索精度は「同種サービスの中で最も高い」(井上氏)と胸を張る。
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