創発的ビジネスネットワーク:エンタープライズ2.0の本当の姿がここにある

文:Bernard Lunn 翻訳校正:吉井美有2007年10月16日 08時00分
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 中国・重慶--この最も目覚しいスピードで成長する世界的都市で、何百もの小さなバイク工場が新しい形で協働して生産量を3倍の1500万台にまで向上させ、日本の大手競合企業を打ち負かした。この話は「Wikinomics,how mass collaboration changes everything」に掲載されているものだ。この本の内容はWeb 2.0のイノベーションを現実世界の経済と結びつける印象的なものだ。

 中国のバイクの話はオンラインネットワークについてのものではないが、今日の比較的単純な消費者アプリケーションの先に向かうWeb 2.0技術の潜在力をよく表現している。バイク起業家はコーヒーショップで直接対面の打ち合わせを何度も重ねて信用を形成していった。中国では法の支配が弱く、個人的な関係が重みを持つ。

 これが、中心を持たない「創発的」なネットワークだ。この構造は、特定の問題を解くために設計された小さなやりとりの集積から生まれる。そこにはルールを作る「親方」は存在しない。これは、小売業でいうWal-MartやPC業界におけるMicrosoftのような存在によって支配されることのない市場だ。

 西側では、このネットワークはオンラインで形成することができる。カスタマイズされた製品を欲する裕福で洗練された顧客と、組み立てからパッケージング、供給までを「ジャストインタイム」で行うことのできる企業群ネットワークとリンクさせるのだ。これらのネットワークを、Dellを巨大企業に押し上げたサプライチェーンと同じものが複数の企業で分散ネットワーク的に形成されたと考えるとよい。

個人化とカスタマイズ

 オンライン型の創発的ビジネスネットワークの登場は、真の意味でのエンタープライズ2.0だ。大企業がブログやRSS、Wikiを使っても、ビジネスの中心がレガシーのERPやSCM、CRMなどのシステムに縛りつけられている限りは、影響は限定的だ。これらの企業は大量生産製品を大量市場に提供するために作られている。他方、新しい波は個人化とカスタマイズを中心にしたものだ。ブログとWikiの組み合わせでは、この変化は引き起こせない。

 求めるものは多いが裕福な顧客は、ユニークなものを欲している。カスタムバイク、自分の週末の家の近くにある農場の草で育てられた牛の肉、自分のサイズに合うデザイナー服、家族の思い出を記した自己出版本、比較的はっきりしない健康問題に対する最先端のソリューションなどだ。この種の製品やサービスを実現するには、現在の大量市場的な製品やサービスの提供の方法を大きく見直す必要がある。

 新しい、より動的なサプライチェーンが重要となる場合の1つに、食がある。『ファストフードが世界を食いつくす(Fast Food Nation)』を読めば、これが喫緊の健康問題であり、単なる消費者の味覚の問題ではないことが分かる。しかし、このバーモント州の先駆的なレストランが発見されるまでには、サプライチェーンが大きな障害となる。

 いまFortune 500に入っている現役企業は、この創発的ビジネスネットワークの構築には関わらない。これらの企業は、むしろ脅かされる側だ。また、これらの企業を支えている少数の巨大ERPベンダーも、このネットワークを作り上げることは考えにくい。したがって、ここには新興企業が埋められる隙間があるように見える。

プラットフォームの主な構成要素

 これらの創発的ビジネスネットワークには、それを実現するための技術的なプラットフォームが重要となる。これには100%正しく、安全であることを要する、複雑なトランザクションを実現するエンタープライズ規模の技術が必要となる。これに加えて、すべてがリアルタイムで処理されなければならない。これは、今日の資本市場を動かしているものと同じ種類の技術だ。

 しかし、「創発」という言葉は今日のERPや金融制度と結びつけて使われるものではない。硬直的で巨大で一枚岩的でもあり、スパゲッティコードとも評されるそれらのシステムは、混沌としていて壊れやすい。新しいプラットフォームは、もっともっと順応性を備えたものでなければならない。

 必要とされるプラットフォームで重要な要素は、次のようなものだ。

  1. 市場参加者が自分自身について説明し、信頼できるパートナーとのつながりを得ることを可能にする、ソーシャルネットワーキングの要素
  2. 消費者が自分の興味のプリズムを通してネットワークを見られるようにする、消費者向けの動的な個人化機能
  3. 認証機構でスパムを排除する、すべてのマーケティング関係者を対象としたレーティングシステム
  4. 1つあるいは複数のサービスプロバイダを通じて多くの小規模生産者のために小さな注文を集約し、必要なものを必要なときに納品できるようにするシステム
  5. 「PCで生活」していない、動き回って働いている人たちのためのモバイルユーザーインターフェース
  6. とりわけ、すべての市場参加者は共通のデータプールにアクセスできる必要がある。一部のデータが私的なものである場合でも、メタタグとモデルには一貫性がなくてはならない。このデータプールは、ネットワークの進化とともに進化していく必要がある
  7. ビジネスアナリストがビジネスロジックに変革を与えうる、モデルに基づいたフレームワーク。これがコードを生成する(Model Driven Architectureなど)

 このようなシステムのビジネスモデルはトランザクション課金でなければならない。大企業が自らのERP/決済システムから脱却するべく即座に何百万ドルも支払うことはないからだ。このため、この構築はベンチャーキャピタルから資金提供を受ける必要がある。これはオープンソースのツール、業界標準のXMLモデル、オープンAPI、そして論理モデルの組み合わせで作られるだろう。

どんな市場で創発型が進むのか

 これらの創発的ビジネスネットワークは、次のような条件が存在するところで最初に発展するだろう。

  1. 裕福で「ちょっと特別な何か」を求める目の肥えた消費者がいる。この消費者の特別なニーズに応えていくことでネットワークに入ってくる資金が、ゼロサムの中抜きを排したネットワークの成長を可能にする
  2. 在庫は「新鮮」なものでなくてはならない。食品が典型的な例だ。ファッションもその典型だろう
  3. 製造が容易である、または工程の多くが自動化できる。これによって、消費者に近いところでの製造が可能になり(世界の裏側で作る必要がなく)、配送をすばやく行うことができる
  4. ある分野に特化した下請け事業者やサービスプロバイダのネットワークがある

 これについて考えてみてもらいたい。これが読者がエンタープライズ2.0に望むものだろうか。新興企業には他にどんなチャンスがあるだろうか。

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