「仮想世界の本質は、“ウェブでできることはするな”ということ」――仮想世界「Second Life」に進出しようとする企業に対して、メルティングドッツ代表取締役の浅枝大志氏はこう警告する。
メルティングドッツは、Second Life内でサービスやプロモーションを展開する企業を支援するベンチャー企業。2006年11月に創業し、企画立案から3Dコンテンツの制作、空間の運営までを請け負う。
Second Lifeはユーザーが3D空間上で他のユーザーとコミュニケーションできるだけでなく、自由にものを作れたり、米ドルと交換可能なリンデンドルという貨幣を使ってものの売買ができたりすることから、次世代のインターネットサービスとして注目されている。しかしその一方で、参加したユーザーからは「何をしていいのかわからない」などという声が上がっている。
これらの声に対し、浅枝氏は「Second Lifeはそもそも世界中のすべての人にとって今すぐ役に立つようなサービスではない」と指摘する。Second Life内のコンテンツ自体がまだ充実しているような状況ではなく、それらのコンテンツを簡単に探して使えるようなツールも揃っていない。このような状態では、不満が出るのは当然のことというわけだ。
「今のSecond Lifeは、Windows 95が登場する前の世界のようなもの。インターネットだって、ソフトバンクがADLSモデムを街頭で配るまでは、これほど世の中には広まっていなかった。一般の人が楽しめるようになるには、あと1〜2年はかかるだろう」
いまはむしろ、Second Lifeのような仮想世界を新しいものとして楽しめる、アーリーアダプターと呼ばれる層向けの世界と浅枝氏はとらえている。
このためメルティングドッツが企業から進出の相談を受けた場合にも、「数千、数万のユーザーを集めたいという相談は断っている」という。ユーザーを集めたいのであれば、サイト上でのプロモーションのほうがはるかに効果的だからだ。
では、仮想世界ならではの魅力とは何なのだろうか。浅枝氏が注目するのは、リアルタイムのコミュニケーションだ。
「例えば実際の店舗では、ちょっと聞きたいことがあればそこにいる店員に聞いてすぐ返事をもらえる。ところがECサイトでは、メールで問い合わせを送って、24時間以内に返事が返ってくればいいほうだ。これでは販売機会を逃してしまう」
1対1のやり取りであればインスタントメッセンジャーや携帯電話のメールもあるが、仮想空間内であれば知らない人同士が大勢集まって盛り上がることも可能だ。
例えば米国のメジャーリーグベースボール(MLB)がSecond Life内でオールスターのホームラン競争の中継を流したたところ、多くのファンがその放映場所に集まり、パブリックビューイングのようになった。番組中継はウェブサイト上でも有料放映されたが、Second Life内での放映は大きく異なる結果が出た。3時間の放映番組のうち、サイト上で放映した場合の平均視聴時間が19分だったのに対し、Second Life内は2時間半という結果になったのだ。
「1人で番組を見ても飽きてしまう。けれども、たくさんの人と一緒に見ればファン同士のコミュニケーションが生まれて盛り上がり、長い視聴時間につながる」
このため、Eコマースや大勢の人が集まる会議、教育などの分野では、このリアルタイムコミュニケーション機能がうまく生かせると浅枝氏は見ている。
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