携帯電話やPHSの通信事業者から回線を借り、独自のモバイルサービスを提供する事業者「MVNO(Mobile Virtual Netwaork Operator)」に関するガイドラインが2006年12月13日に総務省から公表された。このガイドラインの意義は何なのか。1月25日に東京都内で開催された「MVNO+MVNEフォーラム2007」において、総務省の総合通信基盤局 料金サービス課 課長の谷脇康彦氏が明らかにした。
谷脇氏はまず、国内モバイル市場について、契約者数が飽和しつつあることから「今後の国内市場においては、パイ(契約者数)を大きくするのではなく、どのように付加価値を高めていくかという議論に移っている」と指摘。今後は通信のIP化やFMC(固定通信とモバイルの融合)の登場などによって通信環境の多様化が進むという観点から、MVNOの重要性がますます高まっているとした。
2006年12月13日に公表された、新しい「MVNO事業化ガイドライン」(MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン)については、「2002年に最初にMVNO事業化ガイドラインを策定したときから4年が経過し、第3世代携帯電話(3G)の普及やFMCの進展など、MVNOの具合的な実需が見えてきた」とあらためてガイドラインを策定した理由を話す。
「従来のMNO(Mobile Network Operator:携帯電話事業者)が垂直統合型のビジネスモデルを展開し、各キャリアの競争も活発だった。これはこれでユーザーから見れば大変に結構なこと」と一定の評価を与えつつも、「周波数が制約されている中で、現在のMNO間の競争にはおのずと制約がある」と指摘。そこにMVNOの存在意義が出てくるとした。
「MVNOに参入する事業者は、従来手がけていた他の経営資源を用いて参入することになる。他の業態から参入してきて競い合うことで、より高い付加価値が出てくる。そこに新しいマーケットの可能性があり、ひいては日本の国際競争力を高めることができるはず」(谷脇氏)
谷脇氏は、意見募集を踏まえて1月中に最終案を出すとしながらも、新しいMVNO事業化ガイドラインには、4つの大きな特徴があるとした。
1点目は、今回初めてMVNE(Mobile Virtual Network Enabler:MVNOの課金事業を請け負うなどの支援をする企業)の形態について定義されたこと。「MVNEは極めて多様な形態があり、それ自体が電気通信役務を提供する通信事業者に当たる場合と当たらない場合の2種類がある。(通信事業者に)当たらない場合は、MVNEが複数のMVNOの設備を運用する場合もあり得る。MVNEがいることでMVNOは設備投資が軽減できるメリットなどがある」(谷脇氏)
2点目は、MNOとMVNOの関係をより具体的に定義したこと。MVNOには卸電気通信役務として、いわゆるホールセールで自ら電気通信事業を手がける従来のMVNOのほかに、事業者間接続によるMVNO――いわゆるローミング接続による形態もあるとした。
3点目は、MVNOへの接続義務を明確にする一方で、MNOが接続を拒否できる理由、また接続交渉において紛争が生じた場合の解決法についても明文化されたこと。MVNOを拒否できる理由としては「電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき」「接続が当該電気通信事業者の利益を不当に害するおそれがあるとき」など具体的な項目が示され、MVNO側の努力義務についても明示された。さらに、紛争が生じたときは、総務省管轄の電気通信事業紛争処理委員会が、あっせん・仲裁・裁定などの機能を持ち、活用できるとした。
4点目は、周波数割り当て時の扱いが明文化されたこと。MNOはMVNOの利用する周波数もMNOの利用者と同等の権利があるとし、電波法上は両者を同等に扱うとした。
谷脇氏は、こうしたMVNOのガイドラインは固定事業者の接続義務とは異なると強調する。「固定網ではNTTが設備の94%を保有しているため必ず開放する義務を負うが、MNOについては、合理的な理由があれば拒否できるというところが違いだ」(谷脇氏)
講演では、MVNOガイドラインだけでなく、2007年1月から総務省が開催しているモバイルビジネス研究会についても言及された。今年の夏に2.5GHz帯で免許付与が予定されているモバイルWiMAXについても視野に入れ、同研究会でMVNOの扱いをどうするかを議論しているという。
このほか谷脇氏は講演の全編を通して、IP化によって従来の地域区分という概念もなくなってくると強調。「従来は地域やサービス、固定・モバイルにより料金などが分かれていたが、IP化でこうした区分自体がなくなってくる」とし、競争領域の枠組み自体を見直していかなければならないという問題意識を明かした。
最後に谷脇氏は、現在の日本の経済成長のうち4割が情報通信技術(ICT)分野によっているとし、IP化という文脈の中でモバイルビジネスの競争を促進することが、日本経済の活性化、国際競争力の強化につながるとして講演を締めくくった。
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