“iPod旋風”の極意は心に深く突き刺さる前刀流マーケティングにあり:前編 - (page 2)

別井 貴志 (編集部) 、構成:島田昇(編集部)2006年12月26日 13時08分

小池:アメリカではディズニーやP&Gなどのマーケティング担当はマーケティングを専門にしている者にとってはあこがれの職場、ポジションじゃないですか。やっぱりマーケティングに興味があったんですか。

前刀:マーケティングで身を立てるとかそういうことは全然考えていなくて、ディズニーに入る時は、まずそこに新規事業の立ち上げのプロジェクトがあったということ。それとやはり、人を感動させることが最高に素晴らしいということで、そこに惹かれたことが大きいかな。

小池:その次がAOLでしたっけ?

前刀氏

前刀:そう。結局、ディズニーオンライン、オンラインビジネスを立ち上げようとしたんだけれども、当時はまだレベニューモデルがなかった。ウェブサイトがマーケティングツールとしてしかなくて、アメリカで取り組むお金しかない。だから日本ではまだしばらくできないと。

 「Disney.co.jp」とノンディズニーのレーベルの映画をやっている「MOVIES.CO.JP」というサイトは立ち上げたんだけれど、「ネットにキャラクターを上げたらここからコピーしていろんな商品を作られるから駄目だ」と周囲の強い反発を受けました。その反対をくぐり抜けて何とか形にはしたんだけれど、そういう事情だったので、日本で本格的なネットビジネスに取り組むのは難しいことを実感していた時、たまたまAOLの話があった。

 それとディズニーというのは完成されたコンテンツなので、それを日本向けにローカライズして展開していくだけでは、あまり面白くないなというのもありましたね。

 AOLからきた話はコンテンツ部門のゼネラルマネジャーというポジション。コンテンツを立ち上げた後に、当時なかなか会員数が伸びなくて、世界最大のインターネット会社だといっても、せいぜい人から言われたのは「前刀さん、今度入ったアオルって何やる会社ですか」という程度。AOLをローマ字読みした「アオル」じゃなくて「エーオーエル」だし、みたいな(笑)。

 それから、株主とAOL本社の方からマーケティングも見てくれということになった。ちょうどその時、トム・ハンクスとメグ・ライアンの「ユー・ガット・メール」がやってきたので、全面的にこれを使ってマーケティングをしかけていこうと。まだAOLタイム・ワーナーになっていなかったので、ワーナー・ブラザーズと彼らの映像を使うことの交渉がとても大変でしたが、それをなんとか実現しました。

小池氏

小池:「ユー・ガット・メール」を機に、AOLは日本でもかなりプレゼンスは上がったと思うんですよね。あの仕かけをやったわけですか。

前刀:ラッキーだったのは、コーポレートとしてそれを任せようとするちょっと前ぐらいに、都合良くAOLがネットスケープを買収してくれたんだよね。

 当時、日本ではネットスケープの方がはるかに有名なブランドだった。「ネットスケープを買収したあの会社はなんだ」ということで注目を集めつつあるところに「ユー・ガット・メール」があと数カ月したらくるという情報を得て、「ここは全面的に勝負だ」と。 ですから、いろんな面白い仕かけをやりましたね。当時、AOL入会用のCD-ROMの配布などもあったから、スターバックスにも交渉して置いてもらった。「ユー・ガット・メール」の中にスターバックスも出てくるじゃない。当時のアメリカ人の日常生活の最もポピュラーな2つがスターバックスとAOL。それをうまく組み合わせるという狙いです。

小池:CD-ROMはアメリカに住んでいた時は自宅や職場に何十枚も送られてきたけれど、大体みんなコースター代わりになっていましたよね(笑)。

前刀:あれだけ雑誌広告から何から何まで全部「ユー・ガット・メール」のビジュアルで通してできたのは日本だけだった。これによって、月間の会員獲得数が倍になったんですよ。ものすごい勢いがついて、当時のSo-netのような競合他社も「いよいよAOLが本気を出してきたな」という風に急速に注目された。

小池:「ユー・ガット・メール」をAOLで成功させて、それからどうしたの?

前刀:当時はまだ「常時接続」がなく、いわゆるダイヤルアップだったのだけれど、それでも他社が3000円で月150時間、5000円で使いたい放題という料金プランを出してきた。考えてみれば150時間というのは1日5時間で、これは相当頑張らないと使えないから限りなく無制限に近かった。

 「ここはAOLも勝負をかけて、3000円で使いたい放題をやりましょう」と提案したんだけれど、会社としてタイムリーな意思決定ができませんでした。特に日本側は駄目でしたね。ビジネスを成功する秘訣は、タイミングがものすごく重要で、同じことをしても半年遅かったらもう成功しないということは良くあることなんですが。

小池:じゃあ、AOLでできないことを自分でやろうということで。

前刀:うん。ちなみに何でフリープロバイダ、フリーISPだったかというと、実はその前にワシントンDCでAOLのカンファレンスがあって、そこで話を聞いているとヨーロッパではAOLは苦戦していると。なぜかと聞いたら、「フリーISPが出てきた」と言うわけ。「なんだ、それは?」と問うと、要はテレコム会社のキックバックで成り立っているという話で、これは面白いスキームだなと思いましたね。

 そんな話があった時に、たまたま向こうのエクストリーム(ネットワークス)という一番最初にフリーISPを作ったところのボードに入ってた人物と知り合った。聞くと日本でもやりたいという話だったので、「じゃ、一緒にやろうよ」ということに。そのあとはプランを固めて、ベンチャーキャピタル相手に連日プレゼン、プレゼン、プレゼンですよね。

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